【稽古場レポートVol.2】勅使川原三郎の《魔笛》〜あいちトリエンナーレ

10月23日まで愛知県で開催中の「あいちトリエンナーレ2016〜虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」。9月17日(土)、19日(月・祝)には、勅使川原三郎の演出・美術・照明・衣裳によるプロデュースオペラ、モーツァルト《魔笛》が愛知県芸術劇場で上演される。
東京都内で行われた稽古の様子を取材した。
(2016.8.12 東京都内稽古場 Photo:M.Terashi & J.Otsuka/TokyoMDE)

この日の稽古は、共演する東京バレエ団のダンサーも合流。4月からワークショップを行っていたというが、オペラの稽古としてはこの日が初日。最初は音楽にあわせてダンサーに自由に踊ってもらい、その後、勅使川原が随時振り付けしながら稽古は進んだ。
この稽古の進め方について勅使川原は「振りは決めてかたく構成するのではなく、自由度を重視し、即興性を入れていて、消極的ではなく、でも出過ぎないダンスのあり方を作ろうとしています」と語る。

東京バレエ団のダンサーたちも合流
東京バレエ団のダンサーたちも合流
振り付け指導する勅使川原三郎(中央)。左)岡崎隼也 右)氷室友
振り付け指導する勅使川原三郎(中央)。左)岡崎隼也 右)氷室友

東京バレエ団のダンサーとともに重要な役目を担うダンサーが佐東利穂子。佐東は楽曲間の日本語ナレーションも担当するが、随所で登場人物の深層心理を表現するダンスを披露する。

左)佐東利穂子 右)入戸野 伊織(にっとの・いおり)
左)佐東利穂子 右)入戸野 伊織(にっとの・いおり)


勅使川原版《魔笛》では、歌手は歌に専念し、セリフ部分の演技もない。それを補完するのがナレーションであり、ダンスになる。これについて勅使川原はその狙いを次のように説明する。
「歌手の方々は演技をすることが、ある種、癖になっているようですが、今回はそれを抑えてもらっています。堂々とゆったり歌えば、それだけで役としての存在が活きてきます。これまでの経験でできあがっているやり方(演技)があるようですが、それではスケールが小さくなってしまう。今回ワークショップも含め、歌手の方々にも身体の根本的な使い方を習得してもらいましたが、その方がスケールの大きさが出せると思います。そして、そのことによって、ダンサーが入ってきてもお互いを活かしあえるし、歌や音楽、ダンス、抽象的な舞台装置も総合的に活きてくるんです」

歌にあわせて振付する勅使川原三郎。右)鈴木准(タミーノ役)
歌にあわせて振付する勅使川原三郎。右)鈴木准(タミーノ役)
鈴木准(タミーノ役)
鈴木准(タミーノ役)

演出については、「ヨーロッパの、古代のマネをするのではなく、現代の日本人が何を感じるかということが顕れるような舞台設定を作っていくことが大事。一つの演出方法を示してみたい。人間の歴史自体が苦悩の歴史。ドイツ語で書かれたオペラを借りて、その中で、現代を生きる日本人として何ができるかが問題」だと考える勅使川原。
モーツァルトの音楽については「幸福、楽しいというのはその時々であり、ベースになるのは人間の悲劇的なことで、彼の音楽からも感じます。表面的に作曲された旋律だけを聴くのではなく、裏側にある音、一つひとつのどういう風に構成をされているかをを感じる時に、ある種の悲劇性、満たされなさ、自然に対する切離に対して人間の、あるいはモーツァルト個人の難しさを表している、それと同調したときに感動する、人間的な音楽だと感じます。つまるところ、モーツァルトの音楽は、私たちが何を感じているかを古典に接することによって今を考え、いまの姿を感じる、鏡のようものです」と語る。

勅使川原三郎
勅使川原三郎
この日は歌手の衣裳合わせも行われた。 こちらは夜の女王(高橋維)
この日は歌手の衣裳合わせも行われた。
こちらは夜の女王(高橋維)

■あいちトリエンナーレ2016 プロデュースオペラ
モーツァルト/《魔笛》
(全2幕・ドイツ語上演・日本語字幕付き・日本語ナレーション)

9/17(土)、9/19(月・祝)各日15:00 愛知県芸術劇場

演出・美術・照明・衣裳: 勅使川原三郎
指揮:ガエタノ・デスピノーサ
管弦楽: 名古屋フィルハーモニー交響楽団

賢者ザラストロ:妻屋秀和
夜の女王:高橋維
王子タミーノ:鈴木准
王女パミーナ:森谷真理
鳥刺しパパゲーノ:宮本益光
弁者&神官Ⅰ:小森輝彦
恋人パパゲーナ:醍醐園佳
ダンサー:佐東利穂子、東京バレエ団
合唱: 愛知県芸術劇場合唱団

問:クラシック名古屋052-678-5310
愛知県芸術劇場052-971-5609
http://aichitriennale.jp

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