千住 明(作曲)

日本のオペラの新たな鼓動

Photo:Yoshihiro Kawaguchi
Photo:Yoshihiro Kawaguchi

「これまでの仕事のすべてがこのオペラに活きています。テレビや映画の音楽をやってきて本当によかった。音楽で、どのように人を惹きつけながら、どのように物語を紡いでいくのか。その音楽の作り方について、世界中の作曲家の中でも、たぶん僕は結構長けているほうだと思うのです」
 確かな自信を語る作曲家・千住明。昨年1〜2月に金沢と東京で初演したオペラ《滝の白糸》が早くも再演される。
「幕が降りたあとの客席の水を打ったような静けさとすすり泣き。われながら、驚きました。人を無垢な気持ちにして感動を与えるというのは、意図してもなかなかできないことなんです」
 オペラへの意欲には並々ならぬものがある。
「先輩たちが守ってきた日本のオペラを、新たな活性化も含めて継承していくのが自分の役目だと思っています。30年間、ずっと人の注文に応える仕事をしてきて、やっと自分から発信する場所に立てた。だからこそ、新たなオペラの発信を考えたりするなど、なんらかのアクションを起こそうと考えています。その一歩が、間違いなくこの《滝の白糸》なんです」
 これまでに培ってきたネットワークを活かして、音楽、美術、衣装はもちろん、プランナーや映像作家など、さまざまなアーティストたちと協働して、オペラの“新しい波”を生みたいと力強く語る。
「オペラはエンターテインメントであると思います。歌舞伎も宝塚も劇団四季も、それぞれより活気のある世界を努力して切り開いてきました。たとえば、日本のオペラなので、ホワイエで和食や日本酒を提供するなんていうのもいいと思いませんか?」
 オペラ《滝の白糸》の原作は泉鏡花の小説『義血俠血』。映画化・舞台化も多い名作だ。水芸の女太夫・滝の白糸がある日出会った男に捧げる、静かだが燃えるような愛。そして、その愛ゆえに堕ちていく彼女の献身的な愛に、自らの命をもって応える男。台本を手がけたのは俳人の黛まどかだ。
「黛さんの言葉の力がすごいです。よく研いだナイフのよう。可能な限り余計なものを削ぎ落とした、素晴らしい歌になっています」
 人の心へとダイレクトに訴えかける千住の音楽が、主人公二人の宿命を悲しく彩る。題名役の中嶋彰子ら、ほとんどが初演と同じキャストながら、音楽は初演のスコアにかなり手直しを加えた改訂版での上演だ。今回は金沢のみでの公演となり、かなり貴重。千住明の、日本のオペラの新たな鼓動を共有するために、さあ北陸へ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年11月号から)

オペラ《滝の白糸》
11/15(日)16:00 石川県立音楽堂コンサートホール
問:石川県立音楽堂チケットボックス076-232-8632
http://www.ongakudo.jp