荒井英治(ヴァイオリン/モルゴーア・クァルテット)

4つの弦で奏でる“ロック魂”

後列左から:小野富士(ヴィオラ)、藤森亮一(チェロ) 前列左から:荒井英治、戸澤哲夫(共にヴァイオリン)
後列左から:小野富士(ヴィオラ)、藤森亮一(チェロ)
前列左から:荒井英治、戸澤哲夫(共にヴァイオリン)

 東京フィルのコンマス、荒井英治が参加している弦楽四重奏団「モルゴーア・クァルテット」によるプログレッシヴ・ロック集の第2弾『原子心母の危機』は今回もキング・クリムゾン、ピンク・フロイド、ELP、イエス、ジェネシスの5大バンドに絞った鉄壁の選曲で唸らせる。
「二番煎じになってしまうのを避けるために、敢えて困難に挑むような選曲に。それで真っ先に思い浮かんだのがストリングスのイメージからは程遠いイエスの『危機』。ピンク・フロイドの大曲『原子心母』もクァルテットにそのまま移すようなことはナンセンスと思いつつ、何とか再構築できないものかと悩んでいました。この曲は日本のプログレ・シーンに多大な影響を与えましたし、曲のタイトルは今の僕には原子力、それも福島の未曾有の事故に結びついています。しかしそのイメージを無理に自分から廃除しないことで、やっと再構成するポイントが見えてきたんです」
 前作『21世紀の精神正常者たち』のリリース後、ライヴでの反響も大きく、曲の終わりには客席がロックコンサートのような総立ちになることもしばしば。若いオーディエンスの数も増えてきているという。
「本来、当時の最新テクノロジーを結集して、クラシックや民族音楽、ジャズなどを統合して生まれた創造性溢れる音楽がプログレ。僕自身ワクワクするような高揚感を味わって聴いていたので、その同じ感覚を僕らの演奏からも感じてもらえたら嬉しい。僕らにしてみれば、クァルテットのレパートリーという点ではベートーヴェンやショスタコーヴィチと同じ位置づけになりつつあります。バッハの曲を演奏するのに、たとえ当時とは異なる現代の楽器を使ったとしても、そこにバッハの思想や様式美が息づいているのと同様に、2本のヴァイオリンとヴィオラ、チェロからなる4つの楽器で、ロックの本質“ロック魂”を奏でられたらと思います。プログレの古典名曲には時代を超える普遍性と、人を魅了する表現の豊かさとストレートさがあるので」
 新曲として、ELPのキース・エマーソンが東日本大震災の直後に書き下ろしたという「ザ・ランド・オブ・ライジング・サン」を本人から編曲を勧められ、ラストを飾る曲として収録しているのも聴き所。クラシック界の実力派弦楽四重奏団にして、まるで“オヤジ系ロックバンド”のような熱いスピリットを持つ4人組だ。
 アルバム収録曲とショスタコーヴィチやリゲティを演奏する6月の“ライヴ”も大いに盛り上がることだろう。
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年7月号から)

モルゴーア・クァルテット 第40回定期演奏会
6/26(木)14:00/19:00  浜離宮朝日ホール
問:ミリオンコンサート協会03-3501-5638
http://www.millionconcert.co.jp

CD『原子心母の危機』
日本コロムビア
COCQ-85066 
¥2800+税