美内すずえ(漫画家) × 小林沙羅(ソプラノ)インタビュー 〜日本オペラ協会 歌劇《紅天女》

interview & text:室田尚子
photos:青柳 聡

日本オペラ協会が2020年初春に放つスーパーオペラ《紅天女》。大ヒット少女マンガ『ガラスの仮面』の作中劇として知られるこの作品のオペラ化が発表されるや、オペラ界のみならず、ミュージカル・ファンやマンガ・ファンからも熱い視線を浴びている。『ガラスの仮面』原作者であり本作の脚本・監修も手がける美内すずえは、キャストのオーディションにも参加、また衣裳や装置についてもアイディアを出すなど、並々ならぬ意欲を持って臨んでいるようだ。

「漫画家というのは1人で行う作業の多い、とても孤独な仕事です。でも舞台は、それぞれのジャンルで優秀な才能を持った人たちが集まって、話しあいながら作り上げていくもの。今はそのプロセスを楽しんでいます」

美内が『紅天女』をオペラに、と初めて思ったのは、実は20年ほど前にプッチーニのオペラ《トゥーランドット》を観ていた時だという。
「その時なぜかふっと、『紅天女』をオペラにしたら面白いかも、と思ったのです。でもそれはそのまま忘れてしまった。一昨年、日本オペラ協会総監督の郡愛子さんからオペラ化の話をいただいて、そういえば、と思い出し、二つ返事でOKしました」

『紅天女』は、国が分かれて争いの絶えない南北朝時代、千年の梅の木の精・紅天女が乗り移った不思議な少女・阿古夜と、世の平安のために天女像を彫ろうとする仏師・一真の恋物語。主役の阿古夜/紅天女を演じる小林沙羅は、「まるでワーグナー《リング》のように壮大なオペラ」と語る。

「登場人物それぞれが様々な物語を背負っている、とても壮大な作品です。私が演じるのは阿古夜と紅天女ですが、単純に二役というのではなく、時には阿古夜から紅天女へと意識が移っていく途中の状態だったり、また恋をした阿古夜の心が逆に紅天女に影響を及ぼしたり、と、とても難しい役です。また、どの歌も物語の中で重要な内容を歌うものばかりなので、どこに重点を置くか、などメリハリのある表現が求められていると思います」

梅の精から人間へ、また人間から梅の精へと意識が変容していく様を表現する役というのはオペラではなかなか見られないが、そもそも美内が『紅天女』という作品に込めた思いは、どんなものなのだろうか。

「天女というと、誰もが優しくて美しくて、というイメージを持つと思いますが、果たして本当はいかなる存在なのだろうか、という問いかけがあります。仮に太古の昔から地球の生命を育ててきた神様がいるとしたら、今の人間社会を見てきっと怒ると思う。『紅天女』は、そんな目に見えない存在の意思を描こうとしています」

この世ならざるものの意思と、この世に生きる人間の業や欲望が交錯する世界。考えてみればオペラにするのにこれほどうってつけの題材はないのではないか。スーパーオペラ『紅天女』、その全貌が明らかになるのが待ち遠しくて仕方がない。


information

日本オペラ協会公演 日本オペラシリーズNo.80
スーパーオペラ 歌劇《紅天女》(全3幕・新作初演)

2020.1/11(土)、1/12(日)、1/13(月・祝)、1/14(火)、1/15(水)各日14:00 Bunkamuraオーチャードホール

原作・脚本・監修:美内すずえ
作曲:寺嶋民哉

演出:馬場紀雄
特別演出振付:梅若 実 玄祥

指揮:園田隆一郎
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

合唱:日本オペラ協会
石笛:横澤和也
二十五弦筝:中井智弥

出演
阿古夜 × 紅天女:小林沙羅(1/11,1/13,1/15) 笠松はる(1/12,1/14)
仏師・一真:山本康寛(1/11,1/13,1/15) 海道弘昭(1/12,1/14)
帝:杉尾真吾(1/11,1/13,1/15) 山田大智(1/12,1/14)
伊賀の局:丹呉由利子(1/11,1/13,1/15) 長島由佳(1/12,1/14)
楠木正儀:岡 昭宏(1/11,1/13,1/15) 金沢 平(1/12,1/14)
藤原照房:渡辺 康(1/11,1/13,1/15) 前川健生(1/12,1/14)
長老:三浦克次(1/11,1/13,1/15) 中村 靖(1/12,1/14)

問:日本オペラ振興会チケットセンター03-6721-0874
https://www.jof.or.jp
https://www.jof.or.jp/performance/2001_kurenai/