例えば、第1番ハ長調の前奏曲の冒頭、2小節余にわたるC音のオルゲルプンクト。ズーンと底鳴りさせ、可能な限り響きを持続するのがチェンバロで弾く際の常で、モダン・ピアノならより容易くできるはずだが、三膳知枝はあえてそうしない。大事な上声が、かき消されてしまうからだ。常に鮮烈なアプローチに挑む実力派が、「第1集」の録音から2年を経て対峙した「平均律クラヴィーア曲集 第2集」。常に「モダン・ピアノならどう聴こえるか」を考え、各フレーズ、前奏曲とフーガ、24曲の関係性を精査。説得力に満ちた、しかし彼女にしか実現し得ぬ響きの世界を現出させた。
文:寺西 肇
(ぶらあぼ2019年12月号より)
【information】
CD『J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第2集/三膳知枝』
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第2集
三膳知枝(ピアノ)
コジマ録音
ALCD-9201,9202(2枚組) ¥3400+税