日本にも、さまざまなピアノコンクールが存在するが、なかでも規模が大きく、長い歴史をもつのが「ピティナ・ピアノコンペティション」だ。小学生未満の子どもから大人までさまざまなクラスが用意され、優れた音楽的才能の発掘にも貢献してきたが、ソロ部門の最高峰「特級」は、国際コンクールを目指す日本の若手ピアニストたちの目標となってきた。特に、2018年からはファイナルの会場が最高の舞台であるサントリーホール 大ホールとなり、出場者にとっても聴衆とっても、このコンクールが一段と魅力あるものとなったように感じる。近年のグランプリ受賞者、角野隼斗、亀井聖矢、尾城杏奈らも、このコンペティションで頂点に立ったことをきっかけに、ピアニストとして新たなステージへと踏み出している。
2019年グランプリ 亀井聖矢 ファイナルのステージ
今年も8月16日のセミファイナル、19日のファイナルがまもなくだ。ピアニストの個性をじっくりと味わうには、ソロの演奏をたっぷり聴くことのできるセミファイナルがおすすめだ。そして、ファイナルはコンチェルト。そのステージに立てるのは、わずか4名。第一線の指揮者・オーケストラとサントリーホールという場で共演できることは、コンテスタントにとってかけがえのない貴重な経験となる。今年は、大井剛史指揮新日本フィルハーモニー交響楽団とともに、自らが選んだ協奏曲を演奏する。オーケストラとの演奏経験が浅い若手にとってはまさに夢の舞台。熱演が繰り広げられることだろう。どの作品をチョイスするかにも、その人らしさが出るものだ。今年はどんな4曲が演奏されることになるのだろう。
コンクールは、ある意味では残酷でもある。ファイナルの華やかなステージで栄冠を手にする人は、ほんの一握り。でも、私たちが目の当たりにするのは、“勝者”の物語だけではない。その場に立てなかった人たちが音楽と向き合った歳月、緊張や不安と闘った表情も刻みこまれる。彼らがステージで見せる姿は、それぞれ異なるビハインド・ストーリーを背負っているからこそ、私たちの心を捉えて離さない。ステージを重ねるごとに成長していく姿が感動を呼ぶのは、甲子園の高校球児にも似ている。聴衆にとっても、自身の感覚とシンクロするお気に入りのピアニストに出会えたときの喜びは、通常のコンサートではなかなか味わえないものだ。
ピアノファンを熱くする夏は、まだまだ続く。