プラチナ・シリーズ第1回 ライナー・キュッヒル 〜ドイツ3大B+1のヴァイオリン・ソナタ〜

レジェンドとたどる独ヴァイオリン・ソナタ傑作の系譜

 いまから半世紀近く前のウィーン・フィルの映像で、コンサートマスターの席やその隣に座る青年が、弱冠20歳で世界最高の要職に就いたライナー・キュッヒルである。それから45年間その職を務め上げた後、NHK交響楽団のゲスト・コンサートマスターに就任。伝説的巨匠たちと渡り合ってきた彼ならではの、堂々たる雄姿とホールに響き渡る強靭な音色を広く示した。

 そのウィーンの“レジェンド”というべき達人が、東京文化会館小ホールでの「プラチナ・シリーズ」に登場。「ドイツ3大B+1のヴァイオリン・ソナタ」と題して4曲を披露する。「プラスワン」は「ブゾーニ」! フェルッチョ・ブゾーニは、イタリア生まれながらドイツで活躍。バッハなどの研究や編曲、ロマンと理論を兼ね備えた作品群で、独自の存在感をもつ作曲家だ。

 演目も凝っている。すべてヴァイオリン・ソナタで、J.S.バッハ第3番(伴奏付ソナタ)、ブゾーニ第2番(胸に迫る佳品!)、ブラームス第1番「雨の歌」、ベートーヴェン第7番。まず2世紀近く離れた2作品でその繋がりと変化を明らかにして、ブラームスの優しい名曲からベートーヴェンの厳しいハ短調の傑作に収めていく。ブゾーニと「3大B」の組み合わせは興味深いし、ボリューム満点で聴きごたえも充分。これらを経験豊富なキュッヒルの解釈で聴けるのは何よりの贅沢だし、共演の多い加藤洋之のピアノが盤石の演奏で支えるのも嬉しい。ドイツ・ヴァイオリン作品の歴史と魅力を味わえる、意義深い演奏会になるだろう。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2021年8月号より)

2021.9/24(金)19:00 東京文化会館(小)
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650 
https://www.t-bunka.jp