2020年、演奏会が消え、再開後も大曲は困難とされた時期、高関健と東京シティ・フィルが久々の聴衆入りの定期に選んだのは、ブルックナー第8番。大きな挑戦の場、咳もできない緊張感の中、彼らはこれまで通り誠実に、ひたむきに、温かく、ブルックナーの深淵を追求した。高関ならではの精妙なバランスは保ちつつ、各楽員の思いを丁寧にまとめ、ときに開放し、作品のもつ感動と一体化する。時代の記録にして、同作の演奏史に新たに加わる名演となった。また、万感の拍手や楽章間の空気をカットせず、当日の全出演者名を掲載するなど、アルバム制作の姿勢も、特筆して熱烈に支持したい。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2021年6月号より)
【information】
CD『ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調/高関健&東京シティ・フィル』
ブルックナー:交響曲第8番(ハース校訂による原典版)
高関健(指揮)
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
収録:2020年8月、東京オペラシティ コンサートホール(ライブ)
ブレーン・ミュージック
OSBR-37016-17(2枚組) ¥2970(税込)