ナタリー・デセイ(ソプラノ)

私にはジャンルの違いは存在しません

(C)Simon Fowler
(C)Simon Fowler

 4月に日本で歌曲リサイタルを開くナタリー・デセイ。燦めく声音で世界中の歌劇場を制覇した彼女だが、昨年11月、フランスの音楽雑誌の問いかけに「2014年秋までオペラはお休み。やりたいことがたくさんあるの!」と宣言した。そこで電話インタビューを行い、来日への抱負を訊ねてみた。
「オペラという荷物を今は肩から下ろしていますが、そのことに、センチメンタルな感情も寂しさも感じていません。何しろ、オペラは他に何も考えられない程の準備期間を要するので、今まで時間も労力も随分取られていました。でも、昨秋からやっと、ほかのことに使える時間が出来たので、今の私は『新しい人生を準備できる喜び』に満ちています!これからも勿論、音楽で一杯の人生を歩みます。だから、日本で歌曲を歌えることも本当に嬉しいのです。他には、演劇もずっとやりたかった分野なので、2015年に向けて舞台出演の準備も進めています」
 なるほど。2014年のデセイは、アーティストとしての新境地を開拓すべく走り続けている最中である。ではリサイタルの内容について。
「ドイツとフランスの歌曲でプログラムを組みました。ピアニストのフィリップ・カサールが曲を一つひとつ演奏して聴かせてくれる中で、私の心に響いたものを選び抜きました。フォーレやプーランクなどすでに知っているメロディもありましたが、初めて聴く曲もあり、どれも本当に気に入っています! 作曲家にはいろいろな個性がありますね。例えばドビュッシーの陰翳やデュパルクの官能性など。でも、そういったメロディをお客さまの前で歌うのは、実は自分自身をさらけ出すようでもあるのです(笑)。でも、歌うからには、そのことも受けとめてやりますよ!」
 ちなみに、クララ・シューマンやブラームス、R.シュトラウスのドイツ・リートを歌う歓びについて、フランス人であるデセイの観点は?
「国籍を意識したことはないですね(笑)。どの国の歌曲でも、どんな場合でも、ストーリーを『語る』ことに集中します。最近はミシェル・ルグランさんのシャンソンも歌っています。どんな種類の音楽も同じような気持ちで取り組みますので、私にはジャンルの違いは存在しません。オペラでは長い時間をかけて役柄を演じますが、歌曲もいわば、そのミニチュア版です。私はもう、大望や野心などは抱かなくなりました。ただ、芸術的により良い境地に至ることだけが願いです。日本の皆さまに『今の私』を聴いて頂ければ嬉しいです!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2014年4月号から)

ナタリー・デセイ&フィリップ・カサール デュオ・リサイタル
★4月14日(月)・サントリーホール Lコード:37135
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp

他公演
4/16(水)・東京芸術劇場 Lコード:31325
問:都民劇場03-3572-4311