服部百音(ヴァイオリン)

飽くなき音楽への探究心が濃密に凝縮された一夜

(C)YUJI INAGAKI

 国内外で活発な演奏活動を展開している服部百音が、ニューアルバム『Recital』をリリースする。これはプロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ第1番から開幕し、ラヴェルの「ツィガーヌ」で終幕するという趣向。その間にエルンスト「夏の名残りのバラ」、シマノフスキ「夜想曲とタランテラ」、ショーソン「詩曲」が挟み込まれ、すべてが驚異的な集中力と情熱、緊迫感に包まれ、聴き手の耳をそばだてる。

 「プロコフィエフは作曲家の世界観が濃密に映し出されているソナタ。その熱量、情念、壮大な風景などをいかに鮮やかに表現するかに留意しました。現時点で自分ができる最善を尽くしたつもりです。14歳のときに好きになった作品で、生涯弾いていきたいソナタ。ピアノの江口玲さんとの共演ですが、その厚みのある音色、深い解釈など、大きな支えを得ました」

 服部の演奏は彼女が11歳のときから聴いているが、みずみずしい音色と果敢に難度の高い作品に挑戦していく前向きな姿勢、素直でピュアな音楽は当初から変わらない。いまやそこに作品の内奥をじっくり見つめる目が加わり、楽譜の読みがより深くなった。

 「今回の録音はいまもっとも弾きたい作品で組み、限界まで挑戦しました。シマノフスキは繊細さ、民族色、独特のニュアンスに魅了されています。ショーソンも異なる色彩感が必要になります。エルンストは何度演奏しても終わりがない、どこまで弾き込めるか、常に挑戦です。ラヴェルは出だしのソロの部分が非常に難しいですね。ライブは勢いで弾いていくことも可能ですが、録音の場合は音そのものだけで勝負しなければならない。ほんのちょっとした音と音の間などにも神経を張り巡らし、こまかいところまで気を遣いました。そんなこまかいところは誰も気にしないかもしれないのですが、私は一切妥協したくないんです」

 「ツィガーヌ」を表現するのに、彼女は「音を立てる」「鋭角に」ということばを使う。これをより詳しく説明してもらうと…。

 「音と音の間のニュアンス、切り方をいうのですが、お習字をするときに筆を跳ねるように、墨を飛び散らすようにシュパッと動かす。その感覚に似ていると思います。ラヴェルの音楽はドライでエッジの効いた音が必要。しかも色香というか、えもいわれぬ妖艶さも音から聴こえないとラヴェルらしくない。テンポのバランスと音色の変化も重要ですね」

 いま、ロシア語を勉強している。ロシア音楽は息の長いフレーズが多いが、その言語にも共通項があり、演奏にとても役立つという。

 「リサイタルでは前半にショスタコーヴィチのソナタ第1番を演奏する予定です。私は将来的にヴァイオリンで演奏できるショスタコーヴィチの全作品を弾きたいと考えています。それにはロシア語を知ることも大切。私は曲の内奥に入り込んでいくと、いろいろ考えすぎて夜も眠れなくなるくらい。それほど演奏する作品に集中して対峙します。偉大な作品のすばらしさ、本質を存分に伝えたいのです!!」
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2021年6月号より)

Recital〜服部百音 ヴァイオリン・リサイタル
2021.7/6(火)19:00 紀尾井ホール
問:チケットスペース03-3234-9999
https://mone-hattori.com

CD『Recital』
エイベックス・クラシックス
AVCL-84121 ¥3300(税込)
6/30(水)発売