北欧情緒あふれる濃密な音のドラマ
ウイルス禍以来、すっかり旅から遠ざかってしまった人が大半だろう。遠く離れたヨーロッパの空気を伝えてくれるのは、もっぱら音楽の役割になったのかもしれない。新日本フィルの第634回定期演奏会トパーズ〈トリフォニー・シリーズ〉で組まれたのは北欧音楽プログラム。日本を代表するマエストロ尾高忠明が、気鋭の若手ピアニスト髙木竜馬と共演し、冴え冴えとした北欧情緒を伝えてくれる。
曲はグリーグの組曲「ホルベアの時代より」とピアノ協奏曲イ短調、そしてシベリウスの交響曲第1番。グリーグのピアノ協奏曲で独奏を務める髙木は1992年生まれ。2018年に開催された第16回エドヴァルド・グリーグ国際ピアノコンクールで優勝を果たしたほか、数々のコンクールで優勝した新星である。ウィーンと日本を拠点に広範な活躍をくりひろげ、NHK総合テレビのアニメ『ピアノの森』で雨宮修平のメインピアニスト役を務めたことでも話題を呼んだ。清新なグリーグを期待できそうだ。
グリーグのピアノ協奏曲のあまりに有名な冒頭部分は、作曲者の故郷ノルウェーのフィヨルドに流れ落ちる滝を表現するとよく言われる。同様にシベリウスの交響曲第1番もフィンランドの雄大な大自然を想起させる楽曲だ。後のシベリウス作品とは一味違った、チャイコフスキー風の重厚な響きも聴きどころ。尾高が新日本フィルとともに濃密な音のドラマを描いてくれることだろう。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2021年6月号より)
第634回 定期演奏会 トパーズ〈トリフォニー・シリーズ〉
2021.6/25(金)19:15、6/26(土)14:00 すみだトリフォニーホール
問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815
https://www.njp.or.jp