兵士ヴォツェックは、貧しい生活を強いられながら、愛する家族を守るために必死で生きようとするが、貧困と抑圧によって、ついには家族を、そして、自らをも滅ぼす・・・
実話をもとに19世紀ドイツの劇作家ビューヒナーが書いた戯曲に材を取り、アルバン・ベルクが台本と作曲を手がけた20世紀の傑作オペラ《ヴォツェック》が5日、新国立劇場で幕を開けた(今後の上演は8、11、13日の3回)。
演出はドイツ演劇界の鬼才、アンドレアス・クリーゲンブルク。クリーゲンブルクは、もとより救いのないこのオペラを、見えない力による抑圧された社会に蔓延する貧困と暴力が、終には世代から世代へ(親から子へ)と連鎖し人々の狂える様を描く。
たとえばこうだ。
貧しい人々は、通りすがりにコインやパンが撒かれるとそれに群がり、「仕事求む」のプラカードを首からぶらさげ、鼓手長(=軍楽隊の指揮者、花形の役職)の行進を神輿のようにかつぎ、酒場の楽隊のステージを床から支える・・・
そして、“台本には無い”衝撃的な結末によって、その悲劇性を強調する。
狂えるのは何も大人だけじゃない。
こどもたちには虐めが生まれ、オペラの最初から最後まで、ほとんど舞台上にいながら何も言葉を発しないマリーの子供は、壁に「GELD(お金)」と落書きし、母親を「Hure(娼婦)」と嘲け、ナイフを手に取る・・・
第3幕冒頭、「このオペラの中で最も静寂に満ちた瞬間」、マリーが悩み、葛藤を抱えて、神に祈るシーンでは、のちにヴォツェックが自分にとって一番大切な、最愛のマリーを殺してしまうシーンへの重要な伏線が描かれる。
(マリーの小部屋の壁に掛かった画に注目いただきたい)
ベルクはこの悲劇に、バロック時代のパッサカリアやフーガなどの形式をもりこみ、ベートーヴェン、マーラー、シューマンなどの音楽を引用、ワーグナーのようなライトモチーフを多用しながら、3幕のオペラをひとつの交響曲のように作曲、無調でありながら時に「ハッ!」とするほどの美しい音楽を添えた。その凝縮された音楽は20世紀の最高傑作とも言われる。
題名役は、かつてウィーン少年合唱団のスター・ソリストとして人気を博し、特に近現代作品を得意とするゲオルク・ニグル。「ヴォツェックは、まさに私の役だ」というニグルは、ミラノ・スカラ座デビューでヴォツェックを歌い、ベルリン州立歌劇場でバレンボイムの指揮で、ウィーン芸術週間ではハーディングの指揮で、本プロダクションのバイエルン州立歌劇場ではケント・ナガノ指揮、と様々なプロダクションで歌ってきた。ボリショイ劇場ではモスクワ初演も歌った。
「ただ舞台に立って歌い演じるのではなく、なぜ自分が今そうしているのかを常に自分に問いかけ、なぜこう動くのかと自分に常に問うのです。真の芸術家とは、芸術を単に管理する者になってはいけない」(新国立劇場情報誌ジ・アトレ2013.10月号より)と語るニグルの歌と演技には、鬼気迫るものがある。
(文:ぶらあぼ編集部 撮影:寺司正彦/提供:新国立劇場)
◆2013/2014シーズン
アルバン・ベルク/オペラ《ヴォツェック》
Wozzeck/Alban Berg
全3幕〈ドイツ語上演/日本語字幕付〉
2014年4月5日(土)14:00 4月8日(火)19:00 4月11日(金)14:00 4月13日(日)14:00
新国立劇場 オペラパレス
予定上演時間:約1時間40分(休憩なし)
■指揮:ギュンター・ノイホルト
■演出:アンドレアス・クリーゲンブルク
■キャスト
【ヴォツェック】ゲオルク・ニグル
【鼓手長】ローマン・サドニック
【アンドレス】望月哲也
【大尉】ヴォルフガング・シュミット
【医者】妻屋秀和
【第一の徒弟職人】大澤建
【第二の徒弟職人】萩原潤
【白痴】青地英幸
【マリー】エレナ・ツィトコーワ
【マリーの子供】池袋遥輝
【マルグレート】山下牧子
合唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:NHK東京児童合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
[共同制作]バイエルン州立歌劇場
■チケット
S 23,760円 A 19,440円 B 12,960円 C 7,560円 D 4,320円 Z 1,620円
新国立劇場ボックスオフィス
03-5352-9999
http://www.nntt.jac.go.jp/opera/performance/140405_001608.html
ローソンチケット Lコード:32008
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●新国立劇場〜2014年4月新国立劇場オペラ公演「ヴォツェック」ダイジェスト映像
(2009年公演より)
●Alban Berg: Wozzeck at the Bavarian State Opera, Munich
(Alban Berg: Wozzeck. Trailer of the première at the Bavarian State Opera, Munich on November 10, 2008)
●新国立劇場〜エレナ・ツィトコーワ「ヴォツェック」マリー役への意気込みを語る
2013/2014 Season New production
Wozzeck
April 2014 5-13
Music by Alban Berg
Opera in 3 acts
Sung in German with Japanese supertitles
Opera Palace
Conductor Günter Neuhold
Production Andreas Kriegenburg
■Cast
Wozzeck Georg Nigl
Tambourmajor Roman Sadnik
Andres Mochizuki Tetsuya
Hauptmann Wolfgang Schmidt
Doktor Tsumaya Hidekazu
1. Handwerksbursch Osawa Ken
2. Handwerksbursch Hagiwara Jun
Der Narr Aochi Hideyuki
Marie Elena Zhidkova
Margret Yamashita Makiko
Chorus New National Theatre Chorus
Children Chorus NHK Tokyo children chorus
Orchestra Tokyo Philharmonic Orchestra
The New National Theatre, Tokyo
Box Office
+81-3-5352-9999 (10:00 am-6:00 pm, English available)