ダニエル・バレンボイムがベルリンからリモートで記者会見に出席

今年6月に来日し、ピアノ・リサイタルを開催することを発表したダニエル・バレンボイムが、来日に先立ち、4月12日(月)18時(日本時間)にリモートでの記者会見を行った。日本側の会場は、日本経済新聞社カンファレンスルーム。ベルリンのバレンボイムの自宅と東京がオンラインで繋がれた。

バレンボイムは、指揮者としてはシュターツカペレ・ベルリンをはじめとしてたびたび来日を果たしているが、ピアニストとしては今回を含め3回に過ぎず、それだけに話題性も高いものである。

撮影:中嶌英雄

招聘するテンポプリモの中村聡武社長の挨拶の後に、約50分間にわたり会見が行われた。

まずはバレンボイムの日本公演に対する思いから。
「日本へは何度も訪れているが、どのコンサートも印象が強い。それは日本の聴衆は、単にコンサートというイベントに行くという姿勢でなく、音楽に対しての関心が大きく、真摯で演奏への意義を感じるからだと思う。コロナ禍においては、健康と経済について考慮することはもちろん重要だが、文化的な精神世界をなおざりにするべきではない。その意味で日本で弾くことを喜ばしく感じている」

リサイタルでは、ベートーヴェンのソナタに特化し、後期の3曲(第30〜32番)と初期の4曲(第1〜4番)という興味深い二つのプログラムを組んだ。

「東京では2回のみの公演なのでこの選曲となった。最初は全部で8回の予定だったが、そうであればベートーヴェンのほかのソナタも弾けただろう」
「最後の3曲のソナタは音楽史的に重要な作品だが、それはベートーヴェンが最後の時期に書いたからではなく、ベートーヴェンの一連のピアノ・ソナタの創作活動の最後にあるからで、(この到達点に)私はこの3曲に非常な充足感を覚える。演奏に集中力を要する作品だが、日本の聴衆は集中して聴いてくれると思う」

今回、自身が開発に関わったという約5年前に製作された「バレンボイム=マーネ・ピアノ Barenboim-Maene piano」を持ち込んでの演奏となる。この楽器の特徴について
「低音部(中心のcより下の音域)の弦が3本であることと、ほぼ全部の弦が平行に張られ、これにより豊かな音色と透明感を出すことができる」とのこと。
(注:歴史的ピアノの修復家としても知られるベルギーのクリス・マーネが製作した平行弦ピアノ。現代の一般的なグランドピアノのように弦を交差させないことで音色の濁りを回避している)

ベルリンの自宅から

バレンボイムは昨年にドイツ・グラモフォン・レーベルでベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を発表し大きな話題となったが、レコーディング会場のピエール・ブーレーズ・ザール(ベルリン)と来日公演で最初の演奏会場となるサントリーホールでの音響的な違いについて「(ホールが異なることで)音楽づくりの姿勢に変わるところはない。サントリーホールはオーケストラと何度も演奏し、また弾き振りも行っているのでサウンドの特性は分かっており心配していない。ベルリンでベートーヴェンのソナタを録音した時も、実は規模の大きいパリのフィルハーモニーでも演奏していた。特質の異なるホールで弾くのは楽しみと感じている」という。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタには変奏曲とフーガの楽章があるが、バッハとベートーヴェンの相違については? という質問に対して
「ベートーヴェンのフーガは激情的と言ってもいい。とくに『ハンマークラヴィーア』(第29番)のフーガは規模が壮大でドラマティック。これはバッハには見られない。しかし、バッハがあってこそ、ベートーヴェンはフーガを書くことが可能だったことを忘れてはならない」と返答。独自のベートーヴェン観が垣間見えた。

最後に、コロナ禍での活動について「音楽に取り組む上での変化はない。ただコンサートの予定をたてるのが難しくなった。以前ならば、2〜3年前に計画した予定を遂行すればよかったが、今はそうはいかない。頻繁に日本で演奏することができない。それだけに今回のリサイタルを開けることを本当に楽しみにしている」と結んだ。

【Information】
ダニエル・バレンボイム・ピアノ・リサイタル
〜ベートーヴェン ピアノ・ソナタの系譜〜

東京公演〉
第一夜「最初のソナタ」
2021.6/3(木)19:00 サントリーホール
第二夜「後期三大ソナタ」
6/4(金)19:00 サントリーホール

問:テンポプリモ 03-3524-1221
https://tempoprimo.co.jp

〈大阪公演〉
「後期三大ソナタ」
2021.6/7(月)18:30 フェスティバルホール

問:キョードー大阪 06-6231-2221

〈名古屋公演〉
「後期三大ソナタ」
2021.6/9(水)18:45 愛知県芸術劇場コンサートホール

問:中京テレビ事業 052-588-4477