日本の現代音楽シーンを牽引するレジェンドの全貌に迫るプロジェクト
「Toshi伝説」?! そのインパクトに驚いた。本年2月、3月に神奈川芸術文化財団主催で一柳慧芸術総監督就任20周年記念公演が開催される。時代の最前線で活躍を続ける作曲家であり、古典から現代まで横断するピアニスト、欧米の新しい作品の紹介と演奏でも様々な分野に刺激を与えてきた一柳。そう、名前の慧(とし)の伝説であり、一柳の音楽はニューヨークと東京の2つの都市を主な拠点とした「都市の音楽」であるというわけ。聞けばなるほど、この自由な感覚は一柳そのものだ。彼の音楽は常にエネルギーが充溢し、その感性はアップデートを続ける。2つの記念公演も、創作を回顧的に振り返るのではなく、いま、そして未来に、作曲家の眼差しは向けられている。
一柳は「元に戻りたいけれど前のかたちに戻れないいま、一番関心があるのはコロナ以降の音楽の在り方」と語り、「新型コロナウイルスによって、世界各地で分断や衝突が加速していると感じるが、若い3人の音楽家の新しい音楽に対する考え方や音楽に向かう姿勢に触れると希望が湧いてくる」と続けた。若い3人とは、ヴァイオリンの成田達輝、指揮・作曲の鈴木優人、三味線の本條秀慈郎。従来の枠組みにとらわれず活躍する音楽家たちだ。
「共鳴空間(レゾナントスペース)」と題した演奏会(2/13)では、一柳のオーケストラ曲を3曲取り上げる。ヴァイオリン協奏曲「循環する風景」(1983)の独奏はもちろん成田。以前彼は、「歴史的な建物と現代の建築が混在して街並みを作っているように、古典も同時代も隔てなくレパートリーにしたい」と語っていた。成田の研ぎ澄まされた音色と技巧はこの曲でも冴えるだろう。一柳の創作の最も重要なテーマ「空間と時間」をタイトルにもつ「ビトゥイーン・スペース・アンド・タイム」(2001)、そして東日本大震災と並行して書かれた、交響曲第8番「リヴェレーション2011」は、現在の私たちの心にどのように響くだろうか。演奏は、鈴木指揮の東京フィル。鈴木は、新作のファンファーレも作曲して華を添える。
一方、「エクストリームLOVE」(3/20)は、各1時間・入替制の3つのコンサートで構成。「Classical」では、盟友、武満徹の「一柳慧のためのブルーオーロラ」を平野公崇率いるサクソフォン・カルテットが演奏。成田と萩原麻未(ピアノ)のフランクのヴァイオリン・ソナタ、成田と一柳によるベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」第1楽章も必聴だ。
「Traditional」では、日本の伝統楽器で新しい世界を模索する三味線の本條秀慈郎を中心とした邦楽アンサンブルが、高橋悠治、ノルドグレン、一柳らの作品を。「Experimental」は、一柳が米国でジョン・ケージと行動をともにしていた時代の「ピアノ音楽 第1〜第7」(1959〜61)を河合拓始が全曲連続演奏する。図形とインストラクションのみのこの作品、予測不能なパフォーマンスに目と耳は釘付けだろう。
そのほか図形楽譜の展示やクロストーク、2009年のエレクトロニクス卓球台が進化して再登場。24歳以下の学生対象の一柳シートも。刺激的な2公演。ぜひあなたも「Toshi伝説」の目撃者に!
文:柴辻純子
(ぶらあぼ2021年2月号より)
共鳴空間(レゾナントスペース)
2021.2/13(土)15:00 神奈川県民ホール
エクストリームLOVE(入替制/休憩時間2回)
2021.3/20(土・祝) 神奈川県立音楽堂
「Classical」13:00/「Traditional」14:45/「Experimental」16:30
問:チケットかながわ0570-015-415
https://www.kanagawa-arts.or.jp/tc/