全曲に取り組んだことで見出したシューベルトの魅力
ピアニストの佐伯周子が、2021年より8年にわたる「ベーレンライター新シューベルト全集に拠るピアノソナタ全曲演奏会」(全8回)をスタートさせる。これは2028年シューベルト没後200年に向けた壮大なプロジェクトだ。佐伯はすでに04年から19年にかけて同新全集に典拠した「ピアノソロ全曲演奏会」を完遂している。なぜあらためてソナタに特化したシリーズを開始するのだろうか。
「全曲を弾いたからこそ分かったことや、もっと深めたいことが明らかになりました。舞曲の中で、ソナタが埋もれてしまったような感覚もあったので、あらためてソナタだけを丁寧に扱いながら、その魅力をより浮き立たせていきたいと考えました」
全8回の構成はすでに考えられている。
「毎回、初期・中期・後期それぞれのソナタを楽しんでいただけるように組み合わせます。とりわけ初期と中期のソナタや、未整理だった楽章は、メロディラインが美しく歌心に溢れたものも多くあります。しかし今まで演奏機会が多かったとは言えません。それらの素晴らしさをお伝えしたいです」
新全集の校訂や学説を丁寧に読み込み、未完とされてきたソナタにも想定される楽章を補った形で提示する。第1回では、ソナタ第1番D157を、D566/2を加えた4楽章構成として演奏する。
「できる限り主観を排除し、研究者たちが本気で取り組んだ成果を、演奏という形で忠実に再現します。ただ、必ずしもそうした点に関心を持たれなくても、音楽そのものを楽しんでいただきたいですね。シューベルトの音楽は、いつでも寄り添ってくれるような心地良さや歌心に溢れていますから」
コンサートはベーゼンドルファーのインペリアル(低音部を拡張した97鍵)のピアノを使う。自宅でも弾き込むこのピアノは、佐伯の指によく馴染むという。
「D678のミサ曲以降、チェロとコントラバスの低音楽器を分けて書くなど、シューベルトは低音部に繊細な意識をもって作曲していました。バスの響きが伸びやかで、全体的にドイツ語的なイントネーションの音楽作りができるベーゼンドルファーこそ、シューベルトの演奏に最適です」
未完・未整理・断片が多いため、「限られた作品しか親しまれていないのが残念。シューベルトが喜んでくれたら」という思いで、昨今では演奏動画の配信にも力を入れはじめた。2028年に向けた佐伯の熱意あふれる取り組みに注目していきたい。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2021年1月号より)
*本公演は中止・公演延期となりました。
【延期公演】2022.2/1(火)19:00 東京文化会館(小)
シューベルト没後200年=2028年へ向けての
佐伯周子 ベーレンライター新シューベルト全集に拠るピアノソナタ全曲演奏会 全8回連続演奏会
第1回 2021.1/28(木)19:00 東京文化会館(小)
問:ピアノミュージックジャパン080-5528-3281
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