世界クオリティの演奏を無料配信で愉しむ
2020年ほど演奏の場が失われた年はなかった。新型コロナウイルス禍が音楽界に与えたダメージは計り知れない。だが、新たな発見もあった。一つの典型が、東京インターナショナル声楽アカデミー(TIVAA)が6月6日に行った“オンライン・オペラ・ガラコンサート”だった。コンサートやオペラ公演が軒並み中止に追い込まれている最中、29人のすぐれた歌手とピアニストが3大陸から参加したのだ。オンラインという手段が加わることで、大陸の壁も超えて理想の競演が実現し、しかも、その名演を自宅で楽しめる。そこには音楽の新しい可能性が感じられた。
とはいえ、緊急事態宣言の解除直後という特別な環境だからこそ、これだけの才能が結集できたのだろう――。失礼ながら、そう思っていたが、12月12日に無料配信されるガラコンサートは、構成的にいっそう充実した内容となっている。
3大陸30名の演奏家が集うだけでも快挙だが、キャストになお驚かされる。歌手は、天皇陛下御即位をお祝いする国民祭典で「君が代」を歌った森谷真理、二期会のスターテノールで歌の洗練度がさらに増している山本耕平らが日本から参加すれば、ミラノからはバリトンの新星で評価がうなぎ上りの栗原峻希や、五島記念文化賞新人賞も受賞した砂田愛理が。また、アメリカで高く評価されるメゾソプラノの佐藤早穂子はフロリダから、すぐれたカナダ人バリトンのウィリアム・デビアンはニューヨークから、という具合だ。
ピアノの青木ゆりや川瀬史康もNY組だが、同様にNYから参加する二人の一級アーティストを忘れてはならない。一人はメトロポリタン歌劇場の副指揮者で、一流ヴォーカルコーチとして、世界のトップ歌手たちが共演者に指名するハワード・ワトキンス、そしてTIVAA芸術監督で、アメリカを中心に世界のオペラハウスで数々のオペラを指揮するホルヘ・パローディである。選ばれた歌手たちに共通するのは、テクニックはもちろん、歌心に強みをもっているという点だが、表現の深みを追求するパローディならではの人選だ、と唸らされる。
森谷真理の〈私は芸術家の下僕〉、山本耕平の〈春風よ、なぜ私を目覚めさせるのか〉、田村由貴絵の〈あなたの声に私の心も開く〉などは、まさにテクニックと歌心の両立が求められる歌。《リゴレット》の四重唱などにも期待が高まるが、一番楽しみなのは〈ワルキューレの騎行〉だ。パローディのビデオ指揮に合わせて、8人の歌手と2台のピアノが競演する演奏は圧巻で、しかもUR撮影されているというのだ。
文化庁の「文化芸術収益力強化事業」に採択されたため、生配信にかぎり無料で聴けることになった。だが、その後も継続して販売される予定だという。字幕がつき、「フォーブスジャパン」の谷本有香WEB編集長がナビゲーターを務め、出演者にインタビューをしながら進むので、初心者のかゆいところにも手が届く。むろん、新型コロナは一刻も早く終息してほしいが、コロナ禍にもよいところがあったと思えなければ、やりきれない。その意味でも、こういうコンサートを産み出されたのは救いである。
文:香原斗志
《Information》
TIVAA “on Live” & “at Home” Opera Concert
「クリスマス・ガラコンサート」
※12月4日に行われた収録コンサートからの数曲と新たに海外からの動画を併せての構成となります。
【配信日時】
2020.12/12(土)19:00
視聴料金:無料
【見逃し配信】
12/19(土)までいつでも視聴可能
視聴料金:2,000円
出演
ソプラノ:岩井理花、岩崎香、岩下晶子、砂田愛梨、宗心裕子、武井涼子、森谷真理
メゾソプラノ:井谷萌子、浦野美香、川口美和、佐藤早穂子、下倉結衣、田村由貴絵、中村裕美
テノール:佐藤 圭、佐野成宏、山本耕平、渡辺正親
バリトン:栗原峻希、ウィリアム・デビアン
バスバリトン:後藤春馬、ナン・チン
ピアノ:青木ゆり、笈沼甲子、川瀬史康、立神粧子、田中健、宮崎智子、ホルヘ・パローディ、ハワード・ワトキンス
ナビゲーター:谷本有香
視聴の際は下記URLから事前登録してください。
https://christmasonline.peatix.com