青柳 晋(ピアノ)

師弟による2台ピアノで聴く華々しいプログラム

 青柳晋の自主企画シリーズ「リストのいる部屋」。Vol.15の今年は、東京藝術大学で後進の育成にも力を入れてきた彼が、教え子の務川慧悟と2台ピアノ作品を届ける。

「ここ20年の大きな変化は、教職についたこと。初めは演奏活動との両立など無理かもしれないと思いましたが、やがて優秀な同僚とのつながり、生徒からの刺激が大切なインプットとなっていると気づきました。続けてきて良かった。その気持ちを反映した企画です」

 務川との出会いは、10年ほど前の夏期講習に遡る。
「知った生徒が多い中、一人見知らぬ少年がいて。私の録音や文章に触れ、レッスンを受けたいと思ったというのです。演奏を聴き、飛び抜けた才能に驚きました。彼とのレッスンは解釈について意見交換する感じ。教えている感覚がないのです」

 前半に演奏するのは、バレエ作品として有名な2曲。
「ベルリン在住だった10年間で一番感動したのが、20世紀バレエ団によるベジャール振付の『春の祭典』。この音楽に合う最高の振付だと思いました。ジョルジュ・ドンのボレロ引退公演でもあったので、ダンサーたちの意気込みもすごかった。以来、夢のレパートリーでした」

 「牧神の午後への前奏曲」は、ドビュッシーで最も好きな曲だという。
「バレエの映像を観たり、バレエ・リュスやニジンスキーにまつわる文献を読んで学び、イメージを膨らませています」

 そして後半は、“部屋の主”リストの作品。
「リストは長命で、作風が多岐にわたります。『レ・プレリュード』は、もとはオーケストラ曲。ピアニストの活動を一段落させ、作曲に専念し始めた頃なので、ピアノから離れ、大スケールの音楽が目指されています」

 フィナーレは「ドン・ジョヴァンニの回想」。
「ピアノの楽しさを伝えることにおいて右に出る者のいない作曲家。この曲はその極みです。若い才能と筋力に刺激されつつ(笑)、楽しんで弾きたいです」

 会場のHakuju Hallでは、コロナ禍の6月にリストを録音した。
「自分とピアノしかない状態で本当によく練習した4、5月を経て、楽器と一体化した気持ちのなか臨みました。スタッフの意気込みもすごく、すべてが注入されています」

 2020年の締めくくり。公演を通じて伝えたいこととは?
「立ち止まり、考える機会が増え、誰にとっても忘れられない一年でした。未だコロナ禍にありますが、自分と周りの人を守りながらも、アクティブに考え、動くことが可能だというパワーを感じていただけたら嬉しいです」
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2020年12月号より)

自主企画シリーズ リストのいる部屋 Vol.15 青柳 晋 & 務川慧悟 ピアノ・デュオ コンサート
2020.12/18(金)19:00 Hakuju Hall
問:ジェスク音楽文化振興会03-3499-4530
http://susumuaoyagi.com

CD『リスト:巡礼の年 第1年「スイス」全曲』
ソール・ブルー 
SBCD-101 ¥2500+税
12月発売予定