リッカルド・シャイー(指揮)

このプログラムは“音楽の街ライプツィヒ”が誇る 輝かしい遺産です

 この3月に、世界最古の自主運営オーケストラ、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団が、第19代カペルマイスター(常任指揮者)のリッカルド・シャイーと共に日本ツアーを行う。今年還暦を迎え、いよいよ円熟の域に達したシャイー。訪日を心待ちにしているという彼に、今回の来日プログラムについて聞いた。
「日本ツアーの曲目には、“音楽の街ライプツィヒ”が誇る輝かしい遺産が反映されています。ライプツィヒ、そしてゲヴァントハウス管と強い結びつきのある4人の作曲家を取り上げるというのがアイディアの発端です」
 これまで15回以上も来日し、日本のホールや聴衆が大好きだという親日家のシャイーは、嬉しそうにこう続けた。
「まずは、ベートーヴェン。ゲヴァントハウス管には、19世紀以来、絶えずその作品を演奏してきた伝統があります。とりわけピアノ協奏曲第5番『皇帝』は、ゲヴァントハウス管が初演を任された重要な作品です。ソリストには、これまで私たちと録音を共にしたこともある素晴らしいピアニスト、ネルソン・フレイレを迎えます。さらにマーラーの交響曲第7番『夜の歌』も取り上げますが、彼がライプツィヒ歌劇場の楽長を務め、この地の音楽文化に深みを与えた人物であることはご存じでしょう。そしてかつてのゲヴァントハウス管のカペルマイスター、すなわち私の大先輩にあたるメンデルスゾーンの序曲『ルイ・ブラス』とヴァイオリン協奏曲もお聴きいただきます。協奏曲のソリストは五嶋みどりさんですから、日本の皆さまにとっていっそう興味深い公演になるのではないでしょうか」
 とはいえショスタコーヴィチの交響曲第5番は一見、意外な選択に見える。
「実はショスタコーヴィチも楽団の伝統を象徴する作曲家のひとりなのです。ゲヴァントハウス管には、1970年代にロシア以外で唯一、ショスタコーヴィチのツィクルス演奏を行ったという歴史があります。こうしたライプツィヒ所縁の作曲家たちの作品を、現代を生きる私たち独自の解釈と演奏で、日本の皆さまにお楽しみいただこうと思っています」
 この多彩なプログラムが、日本にいながら中部ドイツの古都ライプツィヒの歴史と空気を感じることができるよう組まれていたとは、とても喜ばしいことだ。
 待ち遠しい来日までは、彼らの録音を楽しむこともできる。幸運なことに、シャイーはゲヴァントハウス管と共に、積極的に数々のレコーディングにも取り組んでいる。10月にはヨーロッパで、ブラームスの全交響曲とオーケストラ作品を収録した『ブラームス・ボックス』(デッカ)を発表したばかり。まもなく日本でも『ブラームス:交響曲全集』としてリリースされる。
「ブラームスの交響曲全集は、20年以上前に一度、コンセルトヘボウ管とも発表していますが、今回は随分と違った印象のものに仕上がったと思います。ぜひ日本の皆さまにも聴いていただきたいですね。ブラームスは、しばしばソリストとしてゲヴァントハウス管と共演していた、私たちの楽団に馴染みの深い演奏家でもあります。今シーズンは、ライプツィヒの定期演奏会でもツィクルスとしてブラームスの作品を取り上げる予定です」
 そしてもうひとつ、私たちの好奇心をくすぐるのが、シャイーとゲヴァントハウス管が情熱を注いでいる《マーラー・プロジェクト》だ。マーラーの全交響曲を本拠ライプツィヒの演奏会で取り上げ、そのライヴ映像をDVD化していく、現在進行形の壮大なプロジェクトである。
「マーラーは、楽団のみならず私自身にとっても重要な作曲家の一人です。DVDのリリースは数年がかりのプロジェクトですが、全集として残せることをとても嬉しく思っています。今シーズンのゲヴァントハウス管の開幕コンサートでは第9番の交響曲を演奏しましたが、これも近々、DVDとしてリリースされますよ」
 全集の完成が今から待ち遠しい。このDVDプロジェクトの面白さは、最良の音楽を繰り返し“聴く”ことができるばかりでなく、シャイーのあふれんばかりの情熱と正確で美しい指揮が共存する様を“観る”ことができる点だろう。シャイーは、指揮者としての自分をどう見つめているのだろうか。
「指揮者を目指したのは9歳の頃です。それまで作曲とピアノを習っていましたが、ローマでオーケストラの練習を聴き、その響きに心から感銘を受けたのがきっかけでした。この体験無しに、私のその後の人生は語れません。最初に指揮を教えてくださった先生からの影響もあり、私は明瞭で分かりやすい指揮を心がけています」
 これまでの来日公演でも大きな反響を巻き起こしてきたシャイー&ゲヴァントハウス管に、今回も大いに期待できそうである。
取材・文:小川 洋
(ぶらあぼ2014年1月号から)

リッカルド・シャイー(指揮)
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
共演: 3/17:ネルソン・フレイレ(ピアノ)
3/18,3/19,3/21:五嶋みどり(ヴァイオリン)
2014年
3月17日(月)19:00・東京オペラシティコンサートホール
3月18日(火)19:00・ミューザ川崎シンフォニーホール
3月19日(水)19:00・大阪/フェスティバルホール
3月21日(金・祝)18:00・サントリーホール
3月22日(土)17:00・京都コンサートホール
3月23日(日)18:00・サントリーホール
問:カジモト・イープラス0570-06-9960
http://www.kajimotoeplus.com
チケット:ローチケ http://l-tike.com/d1/AA02G03F1.do?DBNID=3&ALCD=1&PGCD=152188

『ブラームス:交響曲全集』
ユニバーサル ミュージック
UCCD-1388/90(3枚組) 
¥4500+税
2014年1月15日(水)発売
 

 

 

 

 

●五嶋みどりさんからぶらあぼ読者へのメッセージ