アラン・ギルバート(指揮)

名門オーケストラを率いる生粋のニューヨーカー

(c)K.Miura

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 アラン・ギルバートとニューヨーク・フィルハーモニック(NYP)の初来日は2009年9月、ちょうど前任者のロリン・マゼールから音楽監督のバトンを引き継いだ直後だった。アメリカ生まれの指揮者がこのポストにつくのはバーンスタイン以来、しかも日系人のギルバートは生粋のニューヨーカーときている。地元出身の若き音楽監督の誕生は、伝統のオーケストラの“次の一手”を大きく印象づけた。
 この時の来日公演からして、気心知れた雰囲気が感じられた。ギルバートはすでに多くの客演を通じてニューヨーク・フィルのカラーを掌握していたからだ。あれから4年、同団が飛躍的な成長を遂げているという噂も聞こえてくる。両者の関係にどんな進化が起こったのだろうか。
「作品のスタイルが変わればアプローチの方法も変わりますが、それについてお互いの見解が深まりました。私が今も昔も変わらず目指しているのは、モーツァルト、チャイコフスキー、ガーシュウィン、バーンスタインといった作曲家の様式や性格を明確に捉え、表現することです」
 ニューヨーク・フィルの歴史は170年に及び、ウィーン・フィルと肩を並べる。その舞台にはマーラーやラフマニノフらが登場。ドヴォルザークの「新世界」をはじめとする不朽の名作の世界初演・アメリカ初演も数多く手掛けてきた。一口に伝統と言っても重みが違う。それを時代に合わせて聴衆に提示するのは音楽監督の使命だ。
「NYPとのリハーサルは興味深い体験です。楽団がすでに備えている知識や、過去の名演の記憶を実感する、喜びの時です。しかし一方で、今を生きる私たちがこうした作品をどう解釈し演奏するか、ということも重要です。初めて演奏する曲のほうが準備がはるかに簡単なことだってあります。今までこう演奏してきた、といった“歴史”がないわけですから。楽団に宿る伝統と、常にフレッシュ、かつ伝統に対して疑問を投げかけ続けるという現代性。この両者のバランスが難しいのです」
 今回の来日は愛知から始まり、大阪、東京、神奈川で計5公演が予定されているが、それぞれ組み合わせが異なるプログラム。歴史的名作から現代の最先端まで、ヨーロッパの古典からアメリカ人のアイデンティティとなっている音楽までが万華鏡のように反映され、一晩のうちに全く背景が異なる作品が並ぶこともある。そこに貫かれているのは「音楽本位」という姿勢だ。
「素晴らしいと思う作品、組み合わせたらエキサイティングな作品を取り上げる——基本はこれにつきます。自分のプログラミングがどのように受け入れられるか毎回注意しています。意外で斬新だと評価してくださる方もいますが、時にはシンプルなプログラムを提案することもあるのですよ(笑)」
 今回の選曲の大きな軸となっているのは、チャイコフスキーの交響曲第5番(2/13を除く全公演で演奏)。
「オーケストラの力強さを表現できる点が魅力です。弦楽器セクションの美しいサウンド、ブリリアントな管楽器のソロ、見事な金管パート——こうした傑作の可能性は無限で、何度演奏しても新しい発見があります。NYPが長い年月、演奏し続けてきた作品ですが、伝統や習慣にとらわれることのない新鮮さをお届けしたい」
 ほかに、ブリテン「青少年のための管弦楽入門」やバーンスタイン「ウェスト・サイド・ストーリー」、さらにはリンドベルイ「ピアノ協奏曲第2番」、ラウス「狂喜」といった同時代の音楽が挙がっている。一方、別の日にはベートーヴェン、ショスタコーヴィチ、ガーシュウィンを盛り込んだプログラムも。
「常にプログラム全体を一つの『テーマ』が貫いている必要はないと思います。ベートーヴェンの交響曲第1番とショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番は音楽としてとてもよく合っています。ガーシュウィンは常に自分の心の近くにいる作曲家で、NYPによる『パリのアメリカ人』は唯一無二の素晴らしいものになるでしょう」
 帯同するソリストにも注目だ。リンドベルイのピアノ協奏曲第2番(2/12)を演奏するイエフィム・ブロンフマンはロシア・ドイツ系のがっちりとしたレパートリーで知られるが、現代曲、しかもこうした大作が聴けるチャンスは今後も滅多にないはず。一方、アメリカ音楽の心のふるさとともいうべきガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」(2/10,2/15)のソロを任されたのは、ジャズピアニストとして本場でも評価の高い小曽根真だ。ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲(2/13)では、グルジア出身のリサ・バティアシュヴィリが登場。NYPがアメリカ初演したこの作品、彼女にとっても、すでにレコーディングもある得意曲だ。
 時代の先端を走る都市、ニューヨーク。音楽本位のプログラミングと痛快な演奏で、ギルバートとNYPが、この街の空気を届けてくれることだろう。
構成・文:江藤光紀
(ぶらあぼ2013年12月号から)

アラン・ギルバート(指揮)
ニューヨーク・フィルハーモニック 2014年 日本ツアー
2月 9日(日)14:00・愛知県芸術劇場コンサートホール
2月10日(月)19:00・大阪/ザ・シンフォニーホール
2月12日(水)19:00・サントリーホール
2月13日(木)19:00・サントリーホール
2月15日(土)15:00・横浜みなとみらいホール
共演 2/10, 2/15:小曽根真(ピアノ)
2/12:イエフィム・ブロンフマン(ピアノ)
2/13:リサ・バティアシュヴィリ(ヴァイオリン)
問:カジモト・イープラス0570-06-9960 http://www.kajimotoeplus.com
2/9公演のみ:中京テレビ事業052-957-3333 http://cte.jp

チケット:ローチケ http://l-tike.com/d1/AA02G03F1.do?DBNID=3&ALCD=1&PGCD=152083