工藤重典(フルート)& 福田進一(ギター)

初共演から41年――気心知れた二人が奏でる心地のよい音の旅

 工藤重典と福田進一。フルートとギターの名手二人のデュオ・アルバム『音の旅~夜明けのセレナーデ〜』が10月にリリース。つねに楽しい二人に話を聞いた。

福田「今回のアルバムはごった煮(笑)。あまり冒険的なコンセプトはないです」
工藤「進ちゃんに任せたので、僕はよくわからないうちに曲が決まっちゃった(笑)」
福田「ひどい! 二人のレパートリーから演奏会のアンコールで弾いてきた曲や、新しく見つけた曲も含めて、気楽に聴いていただける小品集です。1曲目のヴィラ=ロボス『花の分類』から、いい空気を醸し出せたんじゃないかな。タイトルになったロドリーゴの『夜明けのセレナーデ』なんか、音楽的にも技巧的にも非常にスリリングで、よう弾いてるわ! と思います」
工藤「珍しいところでは、ドゥミヤックというフランスの20世紀の作曲家の『中世風小組曲』。シンプルでとてもきれい。あれは進ちゃんが見つけてきたんでしょ? ヨーロッパの風みたいな感じでとても心地いい」
福田「シャイドラーのソナタは、この歳で弾くかなと思うような可愛らしいメロディなのですが、でもわれわれがやるとちゃんと大人の表現になっている。そういう楽しい瞬間がけっこう何度もありました」

 これが6枚目のデュオ・アルバム。41年前にパリで初共演した若き日から、けっして豊富とは言いがたいこの編成のデュオのレパートリーそのものを二人で開拓してきた。
福田「なかなかいい曲がないんです。どちらか一方のパートが幼稚だったりして、両方の技巧が高いレベルで噛み合っている曲が少ない」
工藤「その中で思い返すと、武満徹さんの『海へ』は、すごく貢献してくれましたね。ピアソラの『タンゴの歴史』は、日本ではわれわれが火付け役だと自負しています」

 フルートとギターという編成の魅力は、まさにこのアルバムがそうであるように、リラックスして楽しめることだという。
工藤「和気あいあいと家庭的に、音楽の対話の中でアンサンブルを作れるのが魅力です。そして井戸端会議みたいに、その対話に聴衆が入ってこられる雰囲気があるのもいい。われわれ二人の性格がそうさせているのかもしれないけれど。肩のこりようがない(笑)」
福田「この二人に、あまり厳かなものを期待されても困るので(笑)。まぁ、たまにはもう少し緊張感も持って吹いていただきたい」
工藤「もう夏も終わったから、キンチョウはないんじゃないかなあ」

 日本の夏……。いただきました!
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2020年11月号より)

CD『音の旅~夜明けのセレナーデ~』
マイスター・ミュージック
MM-4082 ¥3000+税
2020.10/24(土)発売