昨年3月のすみだ平和祈念音楽祭のライブ。「新世界交響曲」は正攻法で作品の骨組みをがっちりと捉えた。滑り出しから集中力が高く、ほの暗く深いサウンドでじっくり進めていく。とりわけ少し遅めのテンポで構築した第三楽章には、作品に対する姿勢が端的に表れた。一方、思わぬ方向から作品に切り込みぐいぐいと肉薄する上岡節も健在だ。コダーイ「ガランタ舞曲」ではなまめかしいエキゾティシズムを振りまき、熱狂に向かって駆けていく。さらにアンコールで演奏されたバーバー「弦楽のためのアダージョ」の湧き上がるように天に昇っていくクレッシェンド。この人ならではの魅力も満載だ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2020年10月号より)
【information】
SACD『ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」 他/上岡敏之&新日本フィル』
ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」/コダーイ:ガランタ舞曲/バーバー:弦楽のためのアダージョ
上岡敏之(指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団
収録:2019年3月、すみだトリフォニーホール(ライブ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00732 ¥3200+税