竹澤恭子 ベートーヴェン2大ヴァイオリン・ソナタ「春」&「クロイツェル」

今だからこそ日本の名手たちによる力強い音のメッセージを受け止める

C)松永 学

 海外アーティストがちょっと遠い存在になってしまったが、私たちの国には世界に誇るアーティストもたくさんいる。今こそせわしないグローバリゼーションの中で見落としていたものを再発見するチャンスなのだ。

竹澤恭子もそんな一人。重量感のある音、スケールの大きな造形力は、日本人離れしたものがあるとさえ言えるかもしれない。リサイタルに、コンチェルトにと長らくソロを中心に活躍してきたが、近年はサイトウ・キネン・オーケストラや水戸室内管でも要職をこなしてきた。場に応じた役割を的確に果たしながら演奏の幅を広げ、竹澤は静かに円熟の時を迎えようとしている。

 今回のプログラムはアニヴァーサリーのベートーヴェンのソナタばかり。5番「春」、7番、9番「クロイツェル」の3曲は難聴を自覚し始めた頃から「傑作の森」に至る作品群で、気品とドラマ性、力強さに満ちており、創作に精力的に取り組む作曲家の姿が浮かんでくる。ピアノは世界的なプレイヤーたちから絶大なる信頼と賞讃を集めてきた江口玲。この3曲ではピアノも大きな役割を果たし、とりわけ「クロイツェル」はコンチェルトのように雄大な協奏を繰り広げる。世界の檜舞台で活躍する二人がずばんずばんと重い球を投げ込んでくるはずだ。

 会場は音にノーブルな衣をまとわせる第一生命ホール。コロナ下でのベートーヴェンイヤーになってしまったが、こんな状況だからこそ障壁を乗り越えた創作が伝えてくれるものがあるはず。力強い音のメッセージを体で受け止めよう。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2020年9月号より)

2020.10/24(土)14:00 第一生命ホール
問:トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702 
https://www.triton-arts.net