尺八をクールでかっこいい楽器だと思ってもらいたい
伝統的な楽器であればあるほど、多くの人を驚かす意外性やアイディア、覚悟、そしてもちろん、それを支える演奏技術などがすべて作用したときに独自の世界を築き上げることができる。2001年、尺八というあまりにも決められたイメージで捉えられがちな楽器を手にCDデビューを果たした藤原道山は、次々と繰り出す多彩な活動によって世間一般の先入観を覆し、和楽器奏者という枠を超越しながら活動を続けてきた。
デビュー20周年を迎えた今年、図らずも上半期のコンサート活動などは中止を余儀なくされたが、11月に東京・浜離宮朝日ホールで行われる記念コンサート『雙 -SO-』は、その閉塞感を打ち破って余りある2日間となるはずだ。キーボーディスト/作曲家のkeikoをピアノに迎え、さらにスペシャル・ゲストとしてジャズ・ピアニストの国府弘子(11/18)とプロデューサー/作・編曲家の武部聡志(11/19)というレジェンド級のミュージシャンが出演。それぞれに斬新かつ自信に満ちた演奏が繰り広げられ、聴き手に対してさらに新しい尺八の魅力を伝えるひとときとなる。
「1日目にお迎えする国府さんとは何度もコンサートを行い、2日目のゲストである武部さんとは十数年も一緒にアルバム作りなどをしてきましたから、尺八や私を知っているからこそ常に新しい音楽で会話ができるお二人なのです。今回はオール新曲の『雙 -SO-』という新しいCDにも参加いただきましたので、それぞれの日に新曲を披露できますし、得意とされる分野や曲で共演させていただきますから、自分にとっても新しいヒントがいただける場になることでしょう。コンサートのタイトルになっている『雙』の文字には『対を成す』という意味がありますけれど、鳥の羽ばたきや次の時代へ向かうというイメージ、さらには『そう』という発音が『創造、創作』といった言葉へ広がったり、英語のSOW(そう)になると『種を蒔く』という意味もあるなど、この一文字が希望的な意味をもつ象徴のように思えるのです」
演奏される曲やコンサートの構成・演出などは、これからのディスカッションやリハーサル次第。その中でも国府との共演ではジャズの名曲などを、武部との共演では〈もらい泣き〉や、過去のアルバムに収録された〈春告鳥〉ほかを披露する予定であり、記念イヤーならではの華やかな雰囲気となるはずだ。
「デビューの頃から、“シブい”“古い”といった一般的な尺八のイメージを意識的に崩そうと思いながら活動してきましたし、『あんなのは尺八じゃないよ』という声に接すると、内心『しめしめ』と思ったほどでした。ソロでの活動はもちろん、10年近くも一緒にアルバム制作やツアーをしているSINSKEさん(マリンバ)との共演や、ピアノ+チェロとのトリオである『KOBUDO -古武道-』など、それまでの尺八のイメージから考えるとすべてが意外性にあふれています。そういった活動に取り組めたのは、やはり師匠である初代山本邦山の影響が大きいですね。ジャズや現代音楽、オーケストラとの共演などあらゆることで尺八の活動範囲を広げましたので、その背中を見てきた僕としては、尺八をクールでかっこいい楽器だと思ってもらいたいという願望があるのです」
一方で尺八奏者としての土台ともいえる都山流道山会の主宰でもあり、古典音楽に対する真摯な姿勢も忘れてはいない。「基本的なことは言うに及ばず、すべてをマスターしていないと『守破離(しゅはり)』の『離』の境地に達することはできませんし、毎日が精進のようなもの」と話すその姿勢には、やはり求道者としての厳しさが見える。その上で自由な音楽を聴かせ、楽しませてくれ、尺八の素晴らしさを伝えてくれるリーディング・ミュージシャン。それが藤原道山というアーティストなのだ。
取材・文:オヤマダアツシ 写真:藤本史昭
(ぶらあぼ2020年8月号より)
【Profile】
初代山本邦山に師事。東京藝術大学卒業、同大学院音楽研究科修了。安宅賞、江戸川区文化功績賞、平成30年度文化庁芸術祭優秀賞を受賞。これまでにCD、映像作品等多数リリース。伝統音楽の演奏活動及び研究とともに、マリンバ奏者SINSKEとの「藤原道山×SINSKE」、チェロ・ピアノとの「KOBUDO -古武道-」や尺八アンサンブル「風雅竹韻」といったユニット活動を積極的に行う。現在、都山流尺八楽会大師範。都山流道山会主宰。本年、デビュー20年を迎えCD発売、記念コンサートを開催する。
【Information】
藤原道山 20th Anniversary コンサート『雙 -SO-』
《1日目》
〜JAZZピアニスト国府弘子を迎えて〜
2020.11/18(水)14:00 浜離宮朝日ホール
出演/藤原道山(尺八)、国府弘子(ピアノ)、keiko(ピアノ)
曲目/チック・コリア:Spain、国府弘子:スターランド、アントニオ・カルロス・ジョビン:WAVE、都山流本曲 他
《2日目》
〜音楽プロデューサー武部聡志を迎えて〜
2020.11/19(木)14:00 浜離宮朝日ホール
出演/藤原道山(尺八)、武部聡志(ピアノ)、keiko(ピアノ)
曲目/武部聡志、溝渕大智、マシコタツロウ:もらい泣き、
マシコタツロウ春告鳥、藤原道山:東風、都山流本曲 他
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/