坂下忠弘 (バリトン)

目指すは“癒しの声”

 「京都のお茶屋」のごとく入り口は上品でこじんまり。でも、ホールの中は開放感に富む別世界。木の床と漆喰の壁で上質の音空間が生まれている。「何十軒と訪ねてこの『sonorium(ソノリウム)』に辿りつきました」と話すバリトン坂下忠弘が、年末コンサートへの抱負をじっくり語る。
「音響も空調も極上のピアノも整った素敵なホールです。最大100席と程良いサイズなので、お客さまと親密なやりとりができそうです。今回のリサイタルはプーランクを中心にプログラムを組みましたが、クラシックだけではなく様々なジャンルの歌も披露します。歌手としての目標は“癒しの声”。『どのジャンルの人か分からないけれど、聴いていて落ち着く響きだね』と言われたいですね」
 没後50年のプーランクも、実はクラシックの枠を超える親しみ易さを持つ作曲家。
「今回は2つの歌曲集に初挑戦します。『村人達の歌』は6曲それぞれが独立していて、フランス片田舎の素朴なお婆さんや結婚したい娘、帰還兵など、いろんな立場の人間が歌の主人公になります。プーランク自身は都会のお坊ちゃん育ちですが、田園風景に憧れていたらしく、民謡風の土くさいメロディが出てきたりして面白いですよ」
 もう一つの「陽気な唄」も全8曲ながら短いもの。歌詞は17世紀の無名の詩人の作だが、読むと赤面するぐらい、エロスとユーモア満載の内容で驚かされる。
「“18禁”といいますか(笑)。自分の殻を破りたくて選びました。トークで少し内容にも触れるつもりですけれど、どんな風になるかは当日のお楽しみです!どれも愉しいメロディですし、心を純粋にほぐすつもりで聴いて下さい」
 歌の世界に飛び込んだ頃の思い出から、これまでの道のりについてもざっくばらんに話してもらった。
「もともと英語の翻訳家になりたかったのですが、高校3年の音楽鑑賞会で聴いた生の歌声に鳥肌が立つほど感激し、それからソルフェージュを1日7時間も勉強して桐朋学園大学に合格しました。オペラも勿論ですが、フランス歌曲もずっと歌っていきたい世界です。コメディ=フランセーズで活躍した女優の方にディクション(発音)を教わるんですが、『ここよ!ここ!』といきなり顔をたたかれたりで(笑)、フランス語は頬の筋肉を良く使うものだと実感しますね。南仏でフォーレを歌った時、現地の皆さんに発音を褒めていただけて本当に嬉しくて、これからも頑張ろうと思いました。慌しい年末ですが、終演後にパーティーもある楽しいコンサートですので、皆さんどうぞ日程を空けておいて下さい!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2013年12月号から)

★12月20日(金)・sonorium
問 坂下忠弘コンサート運営事務局03-6441-2377
http://sakashita-tadahiro.com

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