このシューベルトへのオマージュは、身体性を喚起するラテン系の演目とは違うギターの魅力をあぶりだす。柔らかなハーモニーに包まれた調べが、聴き手を親密な領域へと誘う。シューベルトがギター曲を書いたという証拠はないが(詳細はブックレット参照)、彼が自宅で開いていたシューベルティアーデは、まさにこういう飾り気のない雰囲気の中で行われていたのだろう。ギターが当時オーストリアでも人気の楽器だったことは、本盤所収の同時代人の優れた作編曲を通じても確認できる。ポンセのシューベルト讃も、この文脈で聴くと改めて味わい深い。ギター文化の隠れた水脈に気づかされた。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2020年5月号より)
【information】
SACD『シューベルトを讃えて/鈴木大介』
シューベルト:楽興の時 第2番・第3番/ポンセ:ソナタ・ロマンティカ「シューベルトを讃えて」/シューベルト(メルツ編):6つの歌曲/ランツ:2つのロンディーノ
鈴木大介(ギター)
アールアンフィニ(ソニー・ミュージックダイレクト/ミューズエンターテインメント)
MECO-1058 ¥3000+税