バッハにチック・コリア、ジャンルを超えた熱いステージ
アメリカを拠点に活動する日本人マリンバ奏者ミカ・ストルツマンのリサイタルがすごい。基本的に「バッハとジャズ・コンポーザー」というプログラムなのだけれど、そこにはチック・コリアやジョン・ゾーンらの大御所から、注目の新星ジョエル・ロスまで、ジャズ・コンポーザーを中心に7人の作曲家たちが彼女のために書き下ろした作品が並ぶ。しかもそのうち3曲がこのリサイタルのための委嘱作品で世界初演、さらに2曲が日本初演という、じつに豪華なラインナップ。今年グラミー賞にノミネートされた挾間美帆によるビートルズ・アレンジの委嘱初演も。
しかしそれでも彼女は、「中心はバッハ」ときっぱり。
「リサイタルは日本のみなさんにも〈シャコンヌ〉を聴いていだだくため。CD『パリンプセスト』に収録したこの曲が音楽専門誌で評価され、カーネギーホールで演奏したときは、プログラムの2曲目で、まだコンサートの途中だというのにスタンディング・オベーションが起こりました。演奏動画は、クラシック専門の動画ポータルサイト“History of Music”がシェアしてくれたことで大きく拡散して、アクセス数はすでに22万ビュー超。私の人生で一番の評価をいただいているのが〈シャコンヌ〉。リチャード(=夫であるクラリネット奏者リチャード・ストルツマン)も、初めて認めてくれました」
上述のジョエル・ロスは近年ジャズ・ファンの評価がうなぎ上りの若手ヴィブラフォン奏者だが、今回新作を委嘱することになったのも、面識のない彼がその動画を自分のSNSにシェアしたのがきっかけだったのだそう。リサイタルではバッハをもう一曲、〈シャコンヌ〉同様、彼女自身がマリンバ用に編曲した無伴奏チェロ組曲第3番を演奏する。
ジャズとクラシックのクロスオーバーを、特に意識はしていない。
「好きなことをやっているだけ。ジャズのグルーヴは好きだけれど、そこに深みもないと物足りない。かといって、聴衆がなかなか増えないような現代音楽には興味がないです。私はもっと多くのお客さんにマリンバの魅力を知ってほしいので」
「グラミー賞を狙っている」と明言する。けっして大言壮語ではないだろう。チック・コリアだけでなく、これまでにスティーヴ・ガッド、エディ・ゴメスといったジャズの巨人たちともコラボして、次々に夢をかなえてきた彼女。きっと実現させそうな気がする。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2020年4月号より)
*新型コロナウィルス感染症の感染拡大を考慮し、本公演は延期となりました。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
ミカ・ストルツマン マリンバ・リサイタル
2020.6/19(金)19:00 王子ホール
問:アスペン03-5467-0081
https://www.aspen.jp
ミカ&リチャード・ストルツマン来日ツアー
2020.6/8 東京/TSUTAYA代官山、6/12 愛知/宗次ホール、6/14 鹿児島/風テラスあくね、6/16 福岡/大名MKホール、6/19 東京/王子ホール、6/24 熊本県立劇場コンサートホール、6/26 京都/青山音楽記念館バロックザール
※全国公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。