スペランツァ・スカップッチ(指揮)

プッチーニが書いた通りのテンポで演奏するとドラマがますます生きてきます

C)Dario Acosta

 近年クラシックの音楽界でも女性指揮者の活躍が目立つようになってきた。その中でも世界の劇場で著しい活躍をしているのがスペランツァ・スカップッチだ。ヨーロッパ、アメリカ、アジアと世界を駆け巡っている彼女が今年の東京・春・音楽祭に登場し、プッチーニのオペラ三部作《外套》《修道女アンジェリカ》《ジャンニ・スキッキ》(演奏会形式)を指揮する。

 2017年には東京春祭特別オーケストラと《スペシャル・ガラ・コンサート》を、18年には東京都交響楽団との共演でロッシーニの《スターバト・マーテル》を指揮したが、日本のオーケストラのレベルの高さに感心したという。今年は読売日本交響楽団との共演になる。「素晴らしいオーケストラだと聞いています。おそらくオペラ演奏より交響曲を主体に演奏しているオーケストラだと思いますが、プッチーニの作品はオーケストラが非常に大事な役割を果たしています。偉大なオーケストラとの共演を今からとても楽しみにしています」と期待に胸を膨らませている様子だ。

 プッチーニの三部作は自らの提案だ。
「プッチーニのオペラ作品はもう半数ばかり取り組みました。今後もプッチーニの作品を指揮する予定で、将来は全作品を演奏することを目標にしています。三部作は出演者が多いので日本の歌手の方にも参加していただいて、インターナショナルなキャスティングにしました。プッチーニはこの作品を仕上げた時、異なる三作品ではあっても一つの作品として一緒に上演されることを望みました。物語の内容は全く異なるのですが、それぞれには音楽的な導線のようなものがあり、作曲の様式が共通しています。その上、歌手でいえば《外套》のミケーレはそのままジャンニ・スキッキを歌えるし、メゾソプラノも三作品一人で歌えます。でも現実にはまとめて一夜のうちに上演することはなかなか難しく、バラバラに上演されることの方が多くて残念です」

 直接心に響くプッチーニのメロディーに、どの作品を聴いても魅了されるそうだ。「プッチーニはオーケストラが重厚で複雑なので、重くなり過ぎたりテンポを自由にし過ぎたりする演奏に陥りがちなのです。蜂蜜の上に砂糖をかけたような感じの演奏になってしまうことは避けなければならないと思います。勝手にフェルマータをつけて伸ばしすぎたりしないで、プッチーニが書いた通りのテンポで演奏することでドラマがますます生きてくると実感しています」と語る。長年リッカルド・ムーティのもとでコレペティトールを務めてきた経験から学んだことだ。作曲家の意図を理解して尊重する演奏をいつも心掛けているそうだ。

 彼女はローマのサンタ・チェチーリア音楽院でピアノを、サピエンツァ大学で音楽学を学んだ後、ニューヨークのジュリアード音楽院に留学した。指揮者を目指したことはなかったという。オペラが好きでウィーン国立歌劇場のコレペティトールになってムーティに認められたことが、指揮者への道へ踏み出すきっかけになった。

 最近ではオペラばかりでなくオーケストラ・コンサートで振ることも多くなった。
「今ちょうどボルドーでリヒャルト・シュトラウスの『ドン・ファン』を指揮してきたところです。シューベルト、シュトラウス、シューマン、メンデルスゾーンなどロマン派の交響曲を多く手がけています。イタリア人指揮者というとどうしてもオペラという印象を持たれてしまいますが、オペラも交響曲も同じ比重で演奏しています」

 今後はメジャー歌劇場への登場が相次ぐ。6月にはパリ・オペラ座バスティーユにデビュー、来シーズンはサンフランシスコとメトロポリタン歌劇場にもデビューする。「METで《椿姫》を指揮します。イタリア人女性指揮者の第一号になるんですよ」と嬉しそうだ。
 そして来年、新国立劇場で《ルチア》を指揮することも決まっている。「日本の方々の仕事に対するプロフェッショナルな意識や正確さ、互いに尊敬しあう気持ちや温かい心遣いなど本当に素晴らしいと思います」と言う彼女だが、来日中は仕事に追われホテルと劇場の往復ばかりで、観光の時間がなくて残念だという。「それでも東京は大好きです。唯一の息抜きはユニクロでのショッピングかな」と明るい笑い声が響いた。
取材・文:田口道子
(ぶらあぼ2020年4月号より)


Profile

イタリア生まれ。ジュリアード音楽院とローマのサンタ・チェチーリア音楽院を卒業。ウィーン、ローマ、バルセロナ、チューリヒ、ロサンゼルス、ニューヨーク等の主要なオペラハウスに、定期的に出演している。2017年より、リエージュのワロン王立歌劇場の首席客演指揮者を務め、国際的な音楽界において、同世代で最も注目されている指揮者のひとりである。今シーズンは、ワロン王立歌劇場で《蝶々夫人》《チェネレントラ》《夢遊病の女》を、またウィーン国立歌劇場では《フィガロの結婚》《蝶々夫人》を指揮するほか、《リゴレット》でパリ・オペラ座バスティーユにデビューする予定。

*新型コロナウイルス感染症の拡大の影響に伴い、海外からの渡航制限拡大により、予定していた出演者の来日がかなわなくなったため、本公演は中止となりました。(3/18主催者発表)
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
https://www.tokyo-harusai.com/news_jp/20200318/

Information
東京・春・音楽祭 2020 東京春祭プッチーニ・シリーズ vol.1
《三部作》外套/修道女アンジェリカ/ジャンニ・スキッキ(演奏会形式/字幕付)

2020.4/18 (土)15:00 東京文化会館

指揮:スペランツァ・スカップッチ 管弦楽:読売日本交響楽団 合唱:新国立劇場合唱団
歌劇《外套》 ミケーレ:ロベルト・フロンターリ ルイージ:アンジェロ・ヴィッラーリ 他
歌劇《修道女アンジェリカ》 アンジェリカ:アウレリア・フローリアン 公爵夫人:アンナ・マリア・キウリ 他
歌劇《ジャンニ・スキッキ》 ジャンニ・スキッキ:ロベルト・フロンターリ ラウレッタ:アドリアナ・ゴンザレス 他

問:東京・春・音楽祭チケットサービス03-6743-1398 
https://www.tokyo-harusai.com 
※詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

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