“リリコ・スピント”の予感
新進演奏家を紹介する紀尾井ホールの「明日への扉」シリーズ。沖縄出身の与儀巧は、国立音大大学院修了後ボローニャに留学。2008年に東京音楽コンクール第1位と聴衆賞受賞。昨年の宮本亜門演出《マダムバタフライX》のピンカートンなどへの出演で、急速に注目を集めている、30代半ばの期待のテノールだ。曲目は、沖縄の歌、日本歌曲、20世紀イタリアの作曲家マリオ・ペルシコの歌曲、そしてオペラ・アリア。「聴衆に喜んでもらえる曲」「聴いてもらいたい曲」「挑戦したい曲」の3つの視点による選曲だという。それぞれがどの曲に対応するかは措くとして、《愛の妙薬》《椿姫》《ルイザ・ミラー》《トスカ》と並ぶオペラ・アリアには、より重い声質のレパートリーへの挑戦の過程を見るようでもある。明るいリリコに、しっかりとしたボディ感もある声の持ち主だから、やがてはリリコ・スピントの膨大なレパートリーの中でいっそう羽ばたくにちがいない。その予感を、まずはこのリサイタルで。
文:宮本 明
(ぶらあぼ2013年11月号から)
★12月2日(月)・紀尾井ホール Lコード 31462
問 紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061
http://www.kioi-hall.or.jp