古海行子(ピアノ)

新時代ピアニストが感じとる様々な作曲家たちの世界

 日本コロムビアの「オーパス・ワン(Opus One)」は、「新時代アーティストの『作品1』を生み出す新レーベル」。第1弾として2019年1月に5人の新鋭がデビューした。連動して、Hakuju Hallでのコンサートもスタート。12月、その第2弾に登場するのがピアノの古海行子だ。現在、昭和音楽大学の4年生。

 プログラムには、CD収録曲でもあるリストの「超絶技巧練習曲集」第5番〈鬼火〉、そして同第10番と「バラード第2番」と、リストをメインに据えた。

「作曲者自身がピアニストなので、やはりすごく効果的に書かれていると感じます。そして、とくに『バラード第2番』は、かなり詩的。物語が詰まっていて、演劇を見るような曲ですね。もともとリストは、オペラのトランスクリプションを多く弾いていたんです。物語性のある作品が好きなので、そういうものに惹かれます」

 そして前半にはシューベルトのピアノ・ソナタ第19番も。急逝する直前の作品群の一曲には、どこか、彼岸からこちらを見つめているような悲しみや切なさが漂うが、「でも、けっこうエキサイティングだと思うのです」という。

「もともと大好きな曲。コンサートにはちょっとヘビーかなとも思ったんです。聴くほうもけっこう覚悟がいります(笑)。でも、シューベルトの音楽は、時間の流れ方が変わるというか、時間の伸び縮みを感じるので、年の瀬に、響きの素晴らしいホールでじっくり聴いていただく時間があってもいいかなと思いました」

 ほかに、幕開けのバッハと、ラヴェルの「高雅で感傷的なワルツ」。
「それぞれの作曲家の音楽の世界がどっぷり感じられるプログラムだと思います」

 選曲理由には「季節感」や「空気感」が関係しているそうだ。
「シューベルトの19番は、夏に弾きたくないし聴きたくない(笑)。12月がいいんじゃないかって。フィーリングですけど。季節感や空気感と、音楽の持っている性格が、なるべくよく作用し合う曲を選びたいと思っています」

 自分はどんなピアニストだと思うかと聞くと、「嘘をつかないピアニスト」と答えが返ってきた。表面的に飾った演奏には何の意味もないときっぱり。

「作曲家たちが残した素晴らしい音楽を、後世に伝えていくことに貢献できる仕事がしたいんです。自分はその手段がたまたまピアノだったのだと思っています」
 しっかりと自分を見つめる彼女には、きっとその道が開かれている。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2019年12月号より)

Opus One Live @ Hakuju Hall Vol.2
2019.12/26(木)19:00 Hakuju Hall
問:Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700 
https://www.hakujuhall.jp/