歴史と伝統に培われたシンフォニックなサウンドを体感
オペラとコンサートの両輪で活躍する指揮者として信頼の厚い指揮者のケント・ナガノが、2015年より音楽総監督を務めているハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団を率いて10月末より全国ツアーを行う。ハンブルク・フィルとは、ウィーン・フィルやドレスデン・シュターツカペレなどと同様、ドイツ語圏を代表する名門歌劇場オーケストラの一つで、オペラ公演に加え、ハンブルクの新名所エルプフィルハーモニー・ホールでのオーケストラ公演シリーズも持つ。同フィルの来日は25年以上ぶりとのこと。
「ハンブルク・フィルの創立の歴史は17世紀末にまでさかのぼることができます。ドレスデンやベルリンの歌劇場オーケストラとは異なり、私たちのルーツは宮廷楽団ではなく、市の楽団としてシュッツ、ブクステフーデ、テレマン、ヘンデル、C.P.E.バッハなどドイツ・プロテスタント音楽の伝統によって形作られてきました」とナガノは説明する。
「オーケストラは長い伝統によって培われてきた独特の音色を誇ります。加えて、ハンブルクというのは、日本で言えば横浜や神戸などと同様、港町ゆえ、オーケストラもとても外向きな視点を持っているといえます。とりわけエルプフィルハーモニー・ホールが建設されて以来、市の文化自体も活気づいており、その中でハンブルク・フィルも新たな黄金期を迎えているのです。そうした私たちの現在の演奏を皆さんに聴いていただけることは大きな喜びです。ソリストの辻井伸行さんとの共演についてもみんな意欲的で、日本ツアーの前にハンブルクでの公演にもお招きしています」
今回用意されている2つのプログラムにおいて、それぞれのメインを飾るのはマーラーの交響曲第5番とブラームスの交響曲第1番。そう、いずれもハンブルクと縁の深い作曲家だ。
「マーラーは1891〜97年の間ハンブルク歌劇場の指揮者を務めていたので、はるか昔ですが私の前任者にあたります。彼の初期の歌曲や交響曲第1番、『花の章』などもここで構想されました。私自身はここ10年ほど、マーラーを指揮する機会はさほど多くなかったのですが、ハンブルクに着任して以来、このオーケストラと一緒に少しずつ掘り下げてきました。今季取り組んでいるのが交響曲第5番なのです」
他方、ブラームスの交響曲第1番については「ハンブルクはブラームスの街であり、オーケストラはとりわけ彼の音楽に深い共感を抱いていますので、ぜひ私たちの解釈でこの交響曲を味わっていただければ」と語る。
ところでナガノは、2020年夏にはNHK交響楽団に初めて客演し、盟友の作曲家イェルク・ヴィトマンのオラトリオ「箱舟 Arche」などを指揮する。同曲はエルプフィルハーモニーのオープニングでハンブルク・フィルが初演した作品。今回のツアーで取り上げるヴィトマンの序曲「コン・ブリオ」については「洗練されつつも愉快な曲」と話す。
日系三世であるナガノの祖父の郷里は熊本の山鹿市にあり、長年同地との交流も続けている。今回は、ツアーのオフ日を返上して同フィルのメンバーとともに山鹿市を訪れ、重要文化財である芝居小屋・八千代座で熊本地震復興支援チャリティー公演を行う。「メンバーたちもこの地域を訪れ、復興に協力できることに大きな意義を感じています」。今後とも日本との絆を強めてほしい世界のマエストロだ。
取材・文:後藤菜穂子
(ぶらあぼ2019年11月号より)
ケント・ナガノ(指揮)ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団
2019.10/31(木)19:00 サントリーホール(完売)
11/1(金)18:30 りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館(TeNYチケット専用ダイヤル025-281-8000)
11/2(土)17:00 愛知県芸術劇場コンサートホール(東海テレビチケットセンター052-951-9104)
11/4(月・休)14:00 フェスティバルホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
11/5(火)19:00 文京シビックホール(完売)
11/6(水)19:00 高崎芸術劇場(完売)
11/8(金)19:00 福岡シンフォニーホール(完売)
https://avex.jp/classics/hamburg2019/
※プログラムは公演により異なります。全国ツアーの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。