坂田直樹(作曲)

注目の新鋭作曲家がトランペットと拓く新たな領域

©Keita Nakagawa

 トランペットと弦楽アンサンブルによる意欲的なプログラムの公演「Baroque to the Future」がもうすぐ開催される。バッハの「G線上のアリア」やヘンデルの組曲「水上の音楽」(抜粋)など広く親しまれているバロック作品の名曲やヒンデミット作品も並ぶ中、坂田直樹の新作初演が行われる。

 坂田は、愛知県立芸術大学、パリのエコール・ノルマル音楽院及び国立高等音楽院、さらにIRCAMで伝統的な作曲技法に加え電子音楽を深く学んできた。

「フランスの伝統の中で培われてきた響きに対する鋭敏な感性を学び、その上で日本的な世界、儚さや繊細さを意識した音楽作品を作ることになりました」

 「組み合わされた風景」で芥川作曲賞(現 芥川也寸志サントリー作曲賞)、武満徹作曲賞、尾高賞を総なめにしている、いま最も注目されている若手作曲家だ。
 新作のタイトルは「Mirage Lines」(直訳すると「蜃気楼の線」)。

 「バロック音楽、特にバッハの無伴奏組曲からインスピレーションを受けました。一つの旋律楽器のために書かれながら、複雑で豊かな音楽世界があり、 生命体のように成長していくプロセスを参考にしました。小さな音素材が、生物のように有機的に成長し、密度が高まり、激しさを増していくような作品になりました」と語る。

 ソロ奏者として前線を張るのは、古典から現代音楽まで幅広いレパートリーを持つベルギーの名トランペット奏者、イエルーン・ベルワルツ。トランペット演奏のためジャズボーカルまで学ぶ熱心さを持つアーティストだ。

「ベルワルツさんはすごくうまくて、さらに作曲にも理解のある方。新作について数ヵ月にわたる密なやりとりがあって、彼の一押しで決まった箇所もあります」

 そこでは、「微量の音程差によってグリッサンドや唸りを生じさせ、独特の音楽的効果」が狙われ、「トランペットをメロディ楽器としてだけなく、音響装置として捉え直すことにより表現される繊細で流動的な世界」が育まれてきた。ちなみに、曲中にはトランペットと声を同時に“演奏”する場面もあるというのが面白い。

 もちろん、現代的なアンサンブルの妙も見逃せない。曲の冒頭で発揮されるトランペットのエネルギーが、共演の横浜シンフォニエッタによるアンサンブルへ熱伝導していくようなプロセスが存在し、さらに全体の熱量が高まると、「トランペット演奏自体に不思議な音響が宿って消えていく場面があり、そこに詩的な音楽世界が生まれる」という。
 11月7日、王子ホールで気鋭の若手作曲家がトランペットの世界的名手と作り上げる鮮烈な音楽世界。ぜひ堪能してみて欲しい。
取材・文:大西 穰
(ぶらあぼ2019年10月号より)

Baroque to the Future
イエルーン・ベルワルツ∞坂田直樹 with 横浜シンフォニエッタ
2019.11/7(木)19:00 王子ホール
問:オカムラ&カンパニー03-6804-7490 
http://okamura-co.com/concerts/btf2019