アレクセイ・ヴォロディン(ピアノ)

おとぎ話のストーリーに秘められたロシアの魂の響き

©Kaori Nishida

 アレクセイ・ヴォロディンの2019年秋のリサイタルは、「Fairy Tales」と題して開かれる。メトネルの「おとぎ話集」、チャイコフスキー(プレトニョフ編曲)のバレエ「眠れる森の美女」組曲という物語性のある作品をプログラムの中心に据えた。

「メトネルの音楽には13歳か14歳のころに出会い、ソナタの楽譜にほぼ一目惚れしました。『おとぎ話』は30曲以上ありますが、全曲を知り尽くしています。今回は12曲を選びました。非常に内省的で、深遠で、繊細に練られた作品です」

 「おとぎ話集」は単なる曲集のタイトルというよりも、「ノクターン」や「バラード」などのように、メトネルが確立したピアノ音楽の一ジャンルであるとヴォロディンは捉えている。

「ストーリーを語りかけてくるような、自由な表現に満ちた小品です。メトネルが具体的にはどんな物語をイメージしていたのかは定かではありませんが、奏者は楽譜に書かれていることを、書かれているがままに自然に演奏することで、話がおのずと浮かび上がってきます。ほとんどの曲にタイトルはありませんが、op.20-2は『鐘』と題されています。これとて鐘を直接的に描写した音楽ではなく、絶えず鐘の音が響き渡るロシアの人々の魂を描いていると言えるでしょう」

 音数の多い、濃密なメトネルの音楽。ヴォロディンは立体的・美的に構築し、充実した音楽的時間へと昇華させてゆく。

「ロシアの音楽は音数が多く、密度が濃いですね。ロシア芸術は全体的に重厚で悲劇的なものが多いように思います。ドストエフスキーやトルストイらの文学作品に見られるように。そうした芸術はみな、人生を映し出しています。生きていれば悲劇的なことに必ず見舞われます。病、愛する者の死、そして自分自身の死。そうした悲劇を再創造するという芸術的行為は、真実に迫るプロセスであり、同時に非常に美しいプロセスなのです。魂はその美に魅せられ、幸福感をも得ることができるのです」

 後半は、プレトニョフの編曲によるチャイコフスキーの「眠れる森の美女」で始める。

「プレトニョフは、ピアニスト、指揮者のみならず、編曲家としても非常に優れた才能をもっています。オーケストラ的な響きを持つと同時に、もとからピアノのために書かれたのではないかとも思えるほど、完成度の高い編曲です」

 締めくくりは、バラキレフの「イスラメイ」。非常に技巧的な作品だ。

「オリエンタリズムやファンタジーの要素なども織り交ぜられた、卓越したピアニズムの世界があります。技巧面だけでなく音楽的な質の高さが感じられる演奏をお届けしたいと思っています」
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2019年10月号より)

アレクセイ・ヴォロディン ピアノ・リサイタル「Fairy Tales」
2019.10/21(月)19:00 紀尾井ホール
問:カジモト・イープラス0570-06-9960 
http://www.kajimotomusic.com/