熊谷俊之(ギター)

古今のラテン・ギター音楽がぎっしり詰まったアルバム

Photo:Mao Yamamoto

 ウィーン国立音楽大学大学院で研鑽を積み、数多くの国際コンクールに入賞。各国の音楽祭でも好評を博しているギタリスト、熊谷俊之の最新アルバム『トッカータ・ブラジリス』はラテンの響きが魅力的な一枚。注目は、現代ブラジルの作曲家マルロス・ノブレの近作「ソナタ op.115」の世界初録音だ。

「彼の『モメントス』という曲をコンサートで演奏して、それをYouTubeにアップしたのを、本人にメールで報告したところ、すごく喜んでくれたのです。そして『新しいソナタがあるけど興味ある?』と聞かれたので『ぜひ!』と答えて楽譜を送っていただいた。実はこの作品のことは、ウィーンで師事していたアルバロ・ピエッリ先生も楽譜をお持ちでしたので、以前から知ってはいたのです。しかし、先生が一向に弾かないので、とうとう僕の方が先に録音までしてしまいました(笑)」

 このソナタ、とにかく難曲とのこと。
「特に第2楽章はリズムがもの凄く複雑で、演奏する前に楽譜を数学的に解析する必要があるのです。先生が二の足を踏んでいたのも納得ですね。ノブレはピアノ曲も結構書いていて、この曲もそこからモティーフを転用したものだと思われます。あまりギターっぽくないというか、南米を感じさせない。第3楽章もカヴァキーニョ(カバティーナ)を模した音型から始まるのですが、アクセントは意識しているものの、ブラジルのリズムとは違うのです。恐らく彼はあまり民族音楽的なものに拘らない作曲家なのでしょう。作風にもプロコフィエフを思わせるところがあります」

 他の収録曲は、アルゼンチン(ピアソラ)、ブラジル(ヴィラ=ロボス)、メキシコ(ポンセ)、チリ(コントレラス)と作曲者それぞれの出身地が持つエッセンスが反映された作品が多い。そして、特にギタリストとしても名高いコントレラスの斬新な「感覚と理由」にも注目だ。

「彼とは昨年の初来日ツアーでも共演しました。ほぼ同い年ですが演奏技術が非常に高く、いろいろと学ぶべき点も多かったです。この曲は若い頃に書かれましたが、70年代のクーデターで命を落とした伝説のシンガー、ビクトル・ハラへのオマージュが込められた渾身の作品です」

 ラストを飾るのはブラジルの人気デュオ、アサド兄弟の兄セルジオが相米慎二監督の映画『夏の庭』(1994年)のために書いたポピュラーなナンバー「思い出」。こちらも叙情的な歌いまわしが絶妙だ。

「DXD384KHzの高解像度レコーディングにより、リアルで奥行きのあるアルバムに仕上がりました。今年は映画『マチネの終わりに』効果でクラシック・ギタリストが注目を集める年になりそうなので、頑張ります!」

 10月にはCD発売記念のリサイタルも開催。こちらも要チェックだ。
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ2019年9月号より)

熊谷俊之ギターリサイタル〜CD『トッカータ・ブラジリス』発売記念〜
2019.10/11(金)19:00 MUSICASA
問:info@toshiyukikumagai.com

CD『トッカータ・ブラジリス』
マイスター・ミュージック
MM-4063
¥3000+税
2019.8/26(月)発売

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