50年を経た今、内面から湧き出る音楽
今年デビュー50周年を迎えたギター界の第一人者・荘村清志。「50歳頃から脱力して弾けるようになり、内面的な表現力が出始めた」と話す彼は、5月にバッハ中心のアルバム『シャコンヌ』をリリースした。
「シャコンヌ(自身の編曲)は、基本的にオリジナル通り。音が減衰するギターでも、声やヴァイオリンのように歌うことが不可欠ですが、音楽から悲しみや喜びなどを感じながら弾けば繋がって聞こえるのです。
この曲は50年前のデビューリサイタルでも弾いているのですが、当時はガンガン攻めるだけの平坦な演奏でした。今は60〜70パーセントくらいの感覚で弾いています。するとボディの中で美しい残響音が響き、慈しみながらフレーズを奏でることが出来るようになりました。また、バッハの音楽は内面的な資質が試されますが、その点も充実してきたので今回3曲を録音しました。
他の2曲はリュート組曲第1番と無伴奏チェロ組曲第6番。リュート組曲第1番も、表現の可能性が分かってきた今、もう一度録音したいなあと。無伴奏チェロ組曲第6番は大好きな曲。これも『プレリュード』の単音の羅列を一音一音味わいながら弾き、有名な『ガヴォット』も抑えた感じで深みを出せるようになったと思います」
他に小品が3曲。なお本CDは「リュート組曲」以外の全てが初録音だ。
「シューベルトの『セレナーデ』(メルツ編)は、シューベルトがギター曲を書いていたらこうなっていたと思わせるほど巧みなアレンジが魅力的。ラウロの『ベネズエラ風ワルツ第3番』は昔から好きな曲でしたし、凝ったアレンジの『愛の讃歌』(ディアンス編)は、やはり弱音の素晴らしさを表わせるようになってきたので録音しました」
また記念リサイタル(ツアー)も行い、こちらは「バッハ&スペイン」「バッハ&南米」の両プロが基本となる。
「スペイン・プロでは、長年勉強した国で培い、増えていった表現を聴いていただきたい。南米プロは、ギターを知り尽くした作曲家の作品が中心。中でもバリオスが亡き友人に捧げた『郷愁のショーロ』は、武満徹さんが一番好きだったギター曲です」
演奏会も若い時とは違って「毎回新鮮な気持ちで楽しめる」という。
「若い時は解釈を決めて弾いていましたが、今はその時々のインスピレーションを大事にしています。そうした“感性の即興性”が伝わればお客様にもお楽しみいただけると思います」
50年のあくなき探求の成果を、CDとリサイタルあわせて堪能したい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2019年6月号より)
CD『シャコンヌ』
ユニバーサル ミュージック
UCCY-1098 ¥3000+税