ルシエンヌ(トランペット)

フランスから爽やかなトランペットの新星が登場


 いま、フランス出身のトランペット奏者ルシエンヌが、世界から熱い視線を浴びている。彼女は1999年生まれ。パリ国立高等音楽院でジャズとクラシックを学び、さまざまなコンクールで優勝を果たし、2017年に弱冠18歳でワーナー・クラシックスと契約、デビューCD『ザ・ヴォイス・オヴ・ザ・トランペット』をリリースした。そのルシエンヌがピアノの辻井伸行と共演して日本ツアーを行い、ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番とハイドンのトランペット協奏曲を演奏する。
「辻井さんと共演できるのは本当に光栄だと思っています。YouTubeで演奏を聴いていますが、個性的なピアニストですね。ツアーが楽しみです。ショスタコーヴィチの協奏曲は、これまでウラディーミル・アシュケナージの指揮で演奏したことがあります。これは全編が流れるように、説得力をもって演奏しなければなりません」

 このコンチェルトは、第4楽章に美しいトランペットのソロが登場する。
「この最後の楽章のソロは旋律が美しいですよね。私は演奏するたびにこの部分がとても大切だと考え、自由に開放感をもって吹くようにしています。ショスタコーヴィチは音符をわざと少しずらして表現するなど、ことば遊びに近い書法を取り入れています。トランペットはオリジナルの作品数が限られていますから、ショスタコーヴィチがこの作品を書いてくれたことにいつも感謝しています。フレージング、アーティキュレーション、リズムなどがとても多彩でやるべきことがすごく多いんです。ですから挑戦しがいがあります。この曲は共演者によって幾重にも表現が変化していく。演奏の難度は高いのですが、共演者からエネルギーをもらうことができ、今回もそれが一番の楽しみです」

 ルシエンヌの練習法は、まずいろんな演奏を聴いて耳から音楽を覚え、作曲家の意図するところを把握し、自分のなかに取り入れていく。最後に楽譜を見て確認し、音を出す。
「子どものころからこの方法です。すべてを耳から覚えて自分のなかに完璧に取り込んでいく。ステージで演奏するときはいつも裸足ですが、それによって倍音を感じ取り、からだ全体で演奏していきます」

 幼いころはピアノを習っていたが、あるとき学校でトランペットの音色を聴き、一瞬にして魅了された。11歳からコルネットで練習を始め、以来練習曲というものはいっさい勉強せず、さまざまな曲を吹いてきた。
「トランペットを始めてからはずっと演奏していて、唇を痛めるとみんなが心配するほどでした。もちろんソルフェージュや基本的な練習は行いましたが、練習曲は吹いていません。今回のハイドンのコンチェルトは長年演奏していますが、そのつど自分への要求度が高くなっていきます。オーケストラとの対話や一つひとつの音への意識も重要で、祝祭的な気分も必要です。これまでフランス、ロシア、コロンビアなどで演奏してきましたが、毎回違った演奏になります。日本でも演奏するたびに異なる世界が広がると思います」

 デビューCDは大好きだというドリーブの「カディスの娘たち」で幕開けし、オペラやミュージカルを含み、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」で幕を閉じるという、まさにトランペットでさまざまな世界を披露している。
「私はアメリカのトランペット奏者でヴォーカリストのチェット・ベイカーを尊敬していて、彼の演奏する『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』が大好きなので、この曲はぜひ収録したかったんです。トランペットは編曲ものを吹くことが多くなりますが、オペラや器楽曲など、技巧的な曲はトランペットで演奏するとまた原曲とは違う味わいが出ておもしろいと思います。“トランペットってこんな音も出せるのよ、こんな表現はどう?”と、いろんなことを試したつもり。日本公演でもトランペットの多彩な音色を楽しんでいただきたいです」
取材・文:伊熊よし子 写真:中村風詩人
(ぶらあぼ2019年4月号より)

【Profile】
1999年生まれ。マン音楽院でフィリップ・ラフィットにクラシック・トランペットを学び2014年パリ国立高等音楽院に入学。クラシック部門とジャズ部門に同時に入学を許された初の生徒となる。パリのクレドール・コンクール、モーリス・アンドレ青年コンクールでいずれも優勝。その後ヨーロッパ各地で公演、オーケストラとの共演を果たし、フランスのグラミー賞ともいわれる「ヴィクトワール・ド・ラ・ムジク・クラシック2016」でRevelation(新星)を受賞。17年ワーナー・クラシックスと専属契約。19年待望の日本ツアーで来日。

【Information】
リサイタル

2019.7/13(土) 武蔵野市民文化会館(小)(0422-54-2011)

パトリック・ハーン(指揮)
オーケストラ・アンサンブル金沢との共演
辻井伸行(ピアノ) ルシエンヌ(トランペット)

2019.7/17(水) 高山市民文化会館(0577-34-6550)
7/18(木) 石川県立音楽堂 コンサートホール(076-232-8632)
7/19(金) サントリーホール(チケットスペース03-3234-9999)
7/21(日) 軽井沢大賀ホール(完売)
7/22(月) 東京オペラシティ コンサートホール(同上)
7/24(水) 秋田市文化会館(秋田テレビ事業部018-866-8030)
7/25(木) 東京エレクトロンホール宮城(仙台放送022-268-2174)
7/27(土) 盛岡市民文化ホール(019-621-5100/岩手めんこいテレビ019-656-3300)
7/28(日) リンクステーションホール青森(017-773-7300)

※プログラムは公演ごとに異なります。チケット発売情報など全国ツアーの詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
https://avex.jp/classics/oek2019/

【CD】
『ザ・ヴォイス・オヴ・ザ・トランペット』
ワーナーミュージック・ジャパン
9029-588832 輸入盤/¥オープン