ファン・ディエゴ・フローレス(テノール)

MET《椿姫》のアルフレードでロールデビュー

 1996年、23歳の時に、ロッシーニ・フェスティバルで蘇演された《マティルデ・ディ・シャブラン》を病気で降板した歌手の代役として衝撃のデビューを果たしたファン・ディエゴ・フローレス。以来、ロッシーニ、ベッリーニ、ドニゼッティなどのベルカント・オペラの超難役で、世界中のオペラハウスを席巻してきた彼だが、ここ数年、異なるレパートリーも歌うようになり、この12月はメトロポリタン・オペラ(通称:MET)でヴェルディの傑作《椿姫》のアルフレード役を初めて歌った。
「私の声が変わり、中音域が厚くなってきたので、冒険するようになったのです。ベルカントものを歌わなくなったのではありません。異なる作曲家の異なるスタイルの役を、レパートリーの中にミックスさせながら歌うことを気に入っています。アルフレードは、とてもいい感じで歌っています。既に自分も歌っているヴェルディの《リゴレット》マントヴァ公爵は高音が難しく、歌えるテノールは少ないのですが、アルフレードの場合は、私はアリアの最後にハイCを入れます。色々な種類のテノールが歌っていますが、とても美しい役です。メロディが素晴らしく、パッションも最高です」

 《椿姫》のヒロインであるヴィオレッタは、実在の人物をモデルにした、19世紀サロン文化の中心的役割を果たした高級娼婦の一人。そんな“大人”の女に恋をする純真な青年が、アルフレードである。彼はこの役を単に「金持ちの退屈な子息」として演じるべきではないという。
「彼は危険な男です。ます彼はヴィオレッタに紹介されると、『あなたを既に1年間追っかけてきました』と言います。ストーカーというか、もうそれだけでちょっと怖いと思いませんか。そして彼女を紹介されたら、いきなり『あなたが私のものになれば、どうなることでしょう!』と興奮する。第2幕ではヴィオレッタを誤解して激昂、彼女を多勢の人々の前で侮辱してしまう。とても極端な男です。もっとも、私たち誰もが極端なところはあるわけですが(笑)」

 ヴィオレッタを歌うディアナ・ダムラウとは、METをはじめ様々な劇場で共演した旧知の仲であり、信頼関係も抜群だと言う。そんな安心感が、アルフレードのような新しい役に踏み出すときにも、役に立つのだろう。
「METは非常に大きいので、歌手はむやみに大きな声で歌いたくなってしまう。でもそうやって押すように歌い続けていると、直ぐに声の輝きを失ってしまいます。私は劇場が大きいからといって、自分の歌い方を変えたりしません」
 
 2019年12月には、来日コンサートも予定されている。
「日本では、ドニゼッティ、ヴェルディ、ロッシーニ、フランスものなどのアリアを歌うことになると思います。オペラでは、もうすぐマスネの《マノン》を歌いますが、将来はモーツァルトも歌うかもしれません」
 デビュー20年を超え、意欲的なフローレス。今後の活躍に、ますます期待できそうだ。
取材・文:小林伸太郎

©️Marty Sohl/Metropolitan Opera


METライブビューイング2018-19
ヴェルディ《椿姫》(新演出)

2019.2/8(金)〜2/14(木)東劇・新宿ピカデリーほか全国公開
(*東劇のみ2/21(木)までの2週間上映)

指揮:ヤニック・ゼネ=セガン
演出:マイケル・メイヤー
出演
ヴイオレッタ:ディアナ・ダムラウ
アルフレード:ファン・ディエゴ・フローレス
ジェルモン:クイン・ケルシー 
ほか

METライブビューイング
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