大坪泰子(きりく・ハンドベルアンサンブル)

癒しを超えて心の奥底に響くサウンドを追求

きりく・ハンドベルアンサンブル
 ハンドベル界の第一人者として世界的に活躍する大坪泰子が主宰するトップ・グループ「きりく・ハンドベルアンサンブル」。サマーコンサートも好評で、今年もイタリア文化会館アニェッリホールでの公演が人気を集めた。
「季節や場所によって演目が変わるのは当然のこと。夏ならではの熱気あるプログラムやイタリア特集も好評でした。その時々のテーマは違っても、ハンドベル音楽の表現の可能性を追求し、実験的な試みを提案していく姿勢は同じ。研究成果のひきだしは年々増えています」
 この12月も毎年恒例となっている浜離宮朝日ホールに登場。ショパンのノクターン第20番(遺作)、リストの「郷愁」(「巡礼の年〜第1年スイス」より)などの名曲を、綿密な下準備をもとに各パートに振り分け、6〜7人のメンバーで巧みに紡いでいく。
「個人的には、少し暗くて重めの楽曲がこの楽器には合っていると思います。心を揺さぶる響きの本領が発揮されるのは中低音。一方、高い音域で書かれているリスト編曲の『甘き喜びのうちに』では、天上の響きを感じていただけることと思います」
 異色のレイモンド・スコットの「パワーハウス」について「スコットは、音楽に電気を取り入れた最初の人で、その発想に共感します。綺麗や感動だけではなく、音楽には未知なる音との出会いや違和感という“トリガー”もあっていいのでは」と言う。
 他にも、大聖堂の合唱のような響きをもつ作品や、ケルト系の民俗音楽をミクスチュアしたアイリッシュバンドKiLAのナンバーなども楽しみだ。
「あらゆるジャンルの音楽を手がけています。皆さんが意外に思われるような曲も多いようですが、やりたい曲は出来るという前提で始め、どうやったらうまくいくかと考えるのが楽しみです。今後も思いつくまま、新しい響きを求めていくつもりです」
 結成以来、メンバーは若干増えたものの、顔ぶれはほぼ不動で16年。高速で複雑な超絶技巧が目を惹くが、実は複数の手であることを感じさせずにシンプルな曲を自然に歌い上げることのほうが高度なテクニックを要するという。きりく独自の技が光る。
「何でも出来るということを散々やってきた上で、近頃は原点回帰のようですが、“鐘ならではの響き”もクローズアップしています。鐘には本来、人を細胞レベルで揺さぶるような倍音の不思議な力が備わっています。トランス感のある、よりプリミティヴな鐘の響きも人々に求められているのを感じます」
 先日もSNSにて、きりくの演奏が世界中で1週間に60万回再生された。ハンドベル芸術の最先端。直に体験できる機会を見逃さないでほしい。
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ2018年12月号より)

きりく・ハンドベルアンサンブル クリスマスコンサート2018
2018.12/20(木)13:00 19:00 浜離宮朝日ホール
問:ミリオンコンサート協会03-3501-5638 
http://www.millionconcert.co.jp/