ソニックシティ・オープン30周年記念 INNOVATION OPERA《ストゥーパ〜新卒塔婆小町〜》

能とオペラが交叉するところ――重鎮俳優陣とともに描く革新舞台

 指揮者の西本智実が芸術監督を務めるINNOVATION OPERA《ストゥーパ〜新卒塔婆小町〜》は、能の名作『卒塔婆小町』を元に西本自身が脚本を書き、2017年10月に富山のオーバード・ホールで初演、その後18年4月には上野の東京文化会館大ホールで再演され大きな話題となった作品である。この画期的な舞台作品が、今年12月にソニックシティ・オープン30周年記念としてソニックシティ大ホールで上演されることが決まった。
 能について西本は、曽祖父が嗜んでいたこともあり、「興味はありましたが、ある時、西洋音楽が持つ美学や宗教観と共通するものを見出しました」と語る。
  「エルサレムで指揮した翌日に、ヴァチカンに向かいサン・ピエトロ大聖堂でのミサと音楽祭で指揮し、自分の価値観や死生観に変化が生じるのを感じました。舞台構成と脚本を書いた半年くらい前から、能の作品を改めて読み直していくと、西洋と東洋という枠組みを超え、共通する宗教観や美学があることを強く感じました。和楽器を一切使わず、オーケストラの楽器のみで作曲しましたが、和楽器に聴こえる箇所も多いでしょう。差異ではなく共通している部分を作品に表すことができるのではないかと考えたのです」
 作曲は“管打楽器のスペシャリスト”の評判高い織田英子(おりたえいこ)。西本も作曲補として参加し出来上がった音楽は、日本の旋法を用いながら、オーケストラが和楽器の音色を奏でたり効果音も表現したりと演奏法にも工夫が凝らされている。能は「余白の美」といわれるが、それを表現するために「言葉や音ですべてを表現するのではなく、音が届いてから聴き手の心の中に想像が生まれてくるような音楽」を目指した。管弦楽は、イルミナートフィルハーモニーオーケストラ。
 16年、エルサレム滞在中に一気に舞台構成・脚本を書き上げた時、既に西本の頭の中では主役の小野小町は佐久間良子に決まっていたとのこと。女優として様々な役柄を演じてきた佐久間にとっても、この《ストゥーパ》という作品は特別なものであるようだ。
  「ずっとストレートプレイを演じてきた私にとっては、音楽の上で芝居をするというのが初めての経験でしたので、初演の時には芝居に集中しすぎるあまり、“音を聴く”ことがなかなか難しかったのです。しかし、上野での再演時に初めて、音楽と芝居がピタリと合い、新鮮な快感を覚えました。また、平安時代のスター的存在だった小野小町という女性の持つ影の部分、つまり深草少将の人生を誤らせてしまったことへの後悔や女性としての情念のようなものが表現できたら、と思って舞台に臨んでいます」
 一方、今回が《ストゥーパ》初登場となる村井國夫も、「現代劇を演じている自分にとっては、シェイクスピアよりもミュージカルよりもハードルが高い作品」と前置きしつつ、同じく初登場となる僧役の歌舞伎役者・尾上右近のことにも触れ、「現代劇と歌舞伎では発声法が異なるので、それをどう調整していくかが課題です。大きなホールで、やはり中心となるのは声と動きの美しさ。それをぜひ堪能していただきたい」と抱負を語った。
 舞台は前方にアクティング・スペースを設け、紗幕を張った後方にオーケストラと合唱を配置。合唱には、イルミナート合唱団のほか、全日本合唱コンクールなどでの受賞歴もある埼玉県立伊奈学園総合高等学校音楽部のメンバーが加わる。総勢150名を超える演奏者によって繰り広げられる、和と洋の世界観が融合した総合芸術を存分に楽しみたい。
取材・文:室田尚子
(ぶらあぼ2018年11月号より)

2018.12/1(土)14:00 さいたま/ソニックシティ
問:ソニックシティホール048-647-7722 
http://www.sonic-city.or.jp/