エフゲニー・キーシン(ピアノ)

コンチェルトとソロで至高の芸術性を披露

C)Johann Sebastian Hänel

 11月にエフゲニー・キーシンが4年ぶりとなる来日を果たし、マリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団との豪華な共演に加え、東京で2回のソロ・リサイタルを開く。
 バイエルン放送響との演目はリストの華麗かつ甘美なピアノ協奏曲第1番。今季彼はこの協奏曲にフォーカスを当てているが、意外なことに彼にとって新しいレパートリーなのだという。ファンにとっては聴き逃せない機会だ。
 実際、彼の2018/19シーズンはこの協奏曲とともに開始。9月5日、6日にヘルシンキでフィンランド放送響、同10日にブレーメン音楽祭でドイツ・カンマーフィル、同14日にはアムステルダムでコンセルトヘボウ管(指揮ヘンゲルブロック)のオープニング・コンサートと演奏を重ねた。コンセルトヘボウ管との公演を放送で聴いたが、輝かしく躍動感に満ちた演奏で、色彩豊かなオーケストラとともにスケールの大きな演奏を築き上げた。技巧的なパッセージでの切れ味はもちろん、第2楽章での深みのある抒情性も印象的で、シーズン早々彼の好調ぶりをうかがわせた。
 来日公演のあとも、1月にクリヴィヌ&スイス・ロマンド管、さらにはヤンソンス&ベルリン・フィルとも同曲で共演する。いずれレコーディングの計画もあるのかもしれない。
 さて、キーシンはここ数年、私生活においてさまざまな変化があった。13年にはイスラエル国籍を取得して自らのユダヤ人としてのアイデンティティを強固なものにし、イディッシュ語の詩を発表したり、朗読したりもしている。また昨年は幼なじみの女性と結婚し、新しい家庭を築いた。子どもの頃からピアノ一筋で、脇目もふらずに音楽家としての道を突き進んできたように見えるが、ここにきてパーソナルな面も充実し、音楽的にも深みが増してきたように思う。筆者が3月にロンドンで聴いた彼のリサイタルでも、自身のピアニズムをさらに極めようとする探究心と内なる意思の強さを感じた。
 11月の東京でのリサイタルでは、昨シーズン各地で絶賛されたベートーヴェンのソナタ「ハンマークラヴィーア」とラフマニノフの前奏曲からのセレクションというプログラムが予定されていたが、新シーズンが始まり本人の気持ちに変化が出たのだろう、先日曲目が変更となり、前半はショパンのノクターン2曲とシューマンのピアノ・ソナタ第3番という組み合わせになった。この選曲はキーシンがこの夏のヴェルビエ音楽祭でお披露目した今季のリサイタル・プログラムの一部であり、現在もっとも力を入れている曲目といえるだろう。40代後半を迎え、公私ともに充実しているキーシンの今を聴いてほしい。
文:後藤菜穂子
(ぶらあぼ2018年11月号より)

エフゲニー・キーシン ピアノ・リサイタル
2018.11/6(火)19:00 サントリーホール
11/14(水)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール

他公演 
2018.11/2(金)横浜みなとみらいホール(045-682-2000)
11/10(土)大阪/ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)

マリス・ヤンソンス(指揮) バイエルン放送交響楽団との共演
2018.11/26(月)、11/27(火)各日19:00 サントリーホール

曲/リスト:ピアノ協奏曲第1番

問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 
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