カタリーナ・ボイムル(ショーム/カペラ・デ・ラ・トーレ主宰)

古楽界に新風を吹き込む管楽器主導のアンサンブル

 中世・ルネサンス時代の器楽を専門とするアンサンブルといえば、サヴァール&エスペリオンⅩⅪやプルハー&ラルペッジャータなどが思い浮かぶが、これまでは通奏低音奏者が率いる形が多かったように思う。一方、ドイツの古楽集団カペラ・デ・ラ・トーレは2005年にショーム奏者のカタリーナ・ボイムルが結成した管楽器中心のグループで、その新鮮な編成とサウンドによって古楽界に新風を吹き込んできた。大小のショーム(オーボエの祖先)、ドゥルツィアン(ファゴットの前身)、サクバット(トロンボーンの前身)に通奏低音楽器を加えた10人ほどの編成だ。
 グループ名のデ・ラ・トーレは15世紀に活躍したスペインの作曲家の名前から取られているが、「塔の上」という意味も併せ持つ。
 「中世からルネサンスのヨーロッパの都市にはシュタットファイファー(『都市の笛吹き』の意味)とよばれる都市楽師団がいて、市庁舎の塔やバルコニーの上から時を知らせたり、公の行事で祝祭音楽を担当したりしていました。18世紀以降はその伝統は衰退してしまったのですが、私たちは歴史的な資料や楽譜を研究して、当時鳴り響いたであろうサウンドを21世紀に蘇らせてきました」とボイムル。
「この組み合わせはとりわけ倍音が豊かで、よく響き合うのが特色です」
 これまで20枚以上のCDをリリースし、16年には独ECHOクラシック賞の「アンサンブル・オブ・ザ・イヤー」を受賞。どのCDも物語性に富み、たとえば『マルティン・ルターの結婚式』や英国王ヘンリー8世をめぐる音楽など、想像力がかきたてられる。また昨年のユトレヒト古楽祭ではアンサンブル・イン・レジデンスに選ばれるなど、その活動はますます注目を浴びている。
 今回が初来日。大阪いずみホールの「古楽最前線」シリーズでは、レクチャー&コンサート(11/2)に加え、モンテヴェルディの傑作「聖母マリアの夕べの祈り」(11/7)でRIAS室内合唱団と共演する。前者ではソプラノのマーガレット・ハンターを迎え、14世紀のランディーニからプレトリウス、ビクトリア、モンテヴェルディまでほぼ4世紀の音楽史をたどるが、時系列ではなく、「水」「気」「火」「地」の四大元素を切り口にストーリー仕立てにしたプログラムが実に彼ららしい(11/4武蔵野市民文化会館でも公演あり)。「500年前の人々も、喜怒哀楽という点では私たちとそう違っていたとは思いません。演奏を通して、当時の人々の生活や世界観を身近に感じてもらえれば嬉しいです」
取材・文:後藤菜穂子
(ぶらあぼ2018年10月号より)

古楽最前線!─躍動するバロック2018 中世・ルネサンスを経ての開花─初期バロックまで
Vol.1 カペラ・デ・ラ・トーレ レクチャー&コンサート 四元素でたどる音楽史 〜中世からモンテヴェルディまで〜
2018.11/2(金)
Vol.2 モンテヴェルディ:聖母マリアの夕べの祈り 2018.11/7(水)
各日19:00 いずみホール 
問:いずみホールチケットセンター06-6944-1188 
http://www.izumihall.jp/