ルーカス・ゲニューシャス(ピアノ)

ロシアで受け継いだ稀有な音楽性とピアニズム

C)Jean-Baptiste Millot

 グローバル化が進み、楽派ごとの特色が薄れつつあるといわれる中、ゲニューシャスは、ロシアン・ピアニズムが受け継ぐ揺るぎない芯の存在を感じさせるピアニストだ。
 祖母はモスクワ音楽院の名教授ヴェーラ・ゴルノスターエワ、両親もピアニストというサラブレッド。秋の公演では、彼が受け継いだものを多方面から味わうプログラムが用意されている。
 前半は、2010年ショパン・コンクール入賞以来中心的レパートリーとなっているショパン。コンクール時の演奏には、14年に他界した祖母との思い出がある。
「あれは、祖母と僕の音楽的な関係性が最高潮に達した瞬間でした。子どもの頃から積み重ねてきたものの集大成です。良い演奏だったと思いますが、僕の音楽ではなかったかもしれない。祖母亡き今、僕は次のステップに踏み出しました。今度のショパンは別のものになるはずです」
 ピアノ・ソナタは、数年前、第1〜3番をあわせて弾くプログラムで集中的に取り組んだ。祖母の1970年代のプログラムを受け継いだかたちだったという。今回弾くのは、特に難しいと感じる第3番だ。
「ショパンの人生が結実した、記念碑的作品です。正方形のような見事なバランスもあり、古典的。弾くほどに、理想に辿り着きたいと切望する気持ちが高まるのです」
 そして後半はチャイコフスキーの「ドゥムカ」と、デシャトニコフ「12の前奏曲(ブコビナの歌)」。
「デシャトニコフと僕の家族は、昔から親しい間柄にありました。彼は世界各地から作品を委嘱されるほどの作曲家ですが、僕にとってはパーソナルな存在。今回は、昨年秋に完成した『24の前奏曲』の前半を弾きます。彼の故郷、ウクライナの民俗音楽に基づく作品で、古典的様式と、ミニマリズムなどさまざまな音楽の影響が融合しています。将来的に、ショパンやスクリャービン、ショスタコーヴィチの系譜に連なる前奏曲集となるに違いない…むしろそうなるよう、僕が貢献したいと思います」
 今年のラ・フォル・ジュルネTOKYOでアンコールに一部を演奏したが、持ち前の重く輝く音で曲の美点を際立たせていた。彼のピアノの魅力の一つは、間違いなくその音にある。
「僕の音が確立された過程には、ロシアン・スクールや祖母の訓練があります。彼女の音色についての指導や、ペダリングへのこだわりにはただならぬものがありました。たった3フレーズに2時間かけることもあったし、床に這いつくばって僕の足を掴み、感覚を教えられたこともあります。ペダルはピアノにとっての肺だ、繊細に呼吸させなければならないと話していましたね」
 受け継がれた貴重な技術と、視野の広さ。両方が融合した興味深い公演になりそうだ。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2018年10月号より)

ルーカス・ゲニューシャス ピアノ・リサイタル
2018.10/24(水)19:00 紀尾井ホール
問:カジモト・イープラス0570-06-9960 
http://www.kajimotoeplus.com/