今年からの新たなアプローチに期待
コンサートのシーズンもそろそろ秋にはいるな、と感じられるのは、日差しや風のかおりではなく、《サマーフェスティバル》によってだ。すくなくとも東京の都心においては。
1986年にサントリーホールが開館して以来、毎年8月の終わりから9月の始めにかけての、20-21世紀の、同時代の音楽を体験できる稀有な機会だったが、今年から新しい方向へと舵をきる。「テーマ作曲家」と「芥川作曲賞選考演奏会」はそのままに、「ザ・プロデューサー・シリーズ」が始まるのだ。
「ザ・プロデューサー・シリーズ」の初回を飾るのは池辺晋一郎。今年古稀を迎える池辺が4つのコンサートを監修する。
「ジャズ、エレキ、そして古稀」では、ジャズ・バンド(角田健一ビッグバンド)とオーケストラ(東京都交響楽団)が対決するリーバーマンの古典的な作品(1954年初演)と、はじめてステージでエレクトリック・ギターを弾く鈴木大介による野平一郎の協奏曲、そして、池辺晋一郎の「古稀」祝いの新作オーケストラ作品を7人の作曲家が書き下ろすという、豪華なプログラム。ステージの見栄えも通常のコンサートとは異なるだろう。
池辺晋一郎と演劇の長く、そして深い縁から生みだされるのは「演劇とオーケストラが出会うとき」。ストッパードとプレヴィンが1976年に手掛けた俳優とオーケストラのための『良い子にご褒美』の日本初演なのだが、これ、ミュージカルでも音楽劇でもない。旧来のジャンルにおさまりきらない、おもしろい試みだ。かならずしも積極的にコンサートには行かないという知人・友人とつれだって、ステージを観る・聴くのは如何か。
これら大ホールの公演に対して、小ホールのブルーローズでは、コンテンポラリー・ダンスと西洋楽器、和楽器、アラブの楽器が組みあわされる「インプロヴィゼーション×ダンス」、3人のピアニストがリゲティのピアノ作品を分担・挑戦する「リゲティを消化しよう!」。どちらもステージが身近であるがゆえに、そこにある身体や音、空気のうごきそのものを体感できる内容で、そこにもやはり、特に強調はされていないけれども、池辺晋一郎の現場感覚、大ホールでのプログラムともつながるものがあろう。
一方、すでに36回を数える「テーマ作曲家」としてクローズアップされるのは細川俊夫。室内楽作品とオーケストラ作品がそれぞれ1日ずつ。後者にはリゲティと若いフランチェスコ・フィリデイの作品とがカップリングされ、それによって細川作品のグローバルな立ち位置をはかることができる。
これまで海外の動向の紹介や、何らかのテーマを掲げてプログラムが組まれてきた《サマーフェスティバル》。新たな切り口の導入によって全体がどう変わるのか。実際に足を運んで確かめるにしくはない。
文:小沼純一
(ぶらあぼ2013年8月号掲載)
ザ・プロデューサー・シリーズ 池辺晋一郎がひらく
★9月2日(月)ジャズ、エレキ、そして古稀/6日(金)インプロヴィゼーション×ダンス/8日(日)リゲティを消化しよう!/10日(火)演劇とオーケストラが出会うとき
テーマ作曲家・細川俊夫
★9月3日(火)室内楽/5日(木)管弦楽
第23回芥川作曲賞選考演奏会
★9月1日(日)
会場:サントリーホール/サントリーホールブルーローズ(小) ●発売中
問 東京コンサーツ03-3226-9755
サマーフェスティバル公式ウェブサイト
http://www.suntorysummer.com