真鍋尚之は笙奏者にして作曲家でもある。これはその接点に生まれたアルバムだ。まず冒頭の「呼吸III」に、「笙は和音を作る楽器」という先入見を粉々に打ち砕かれた。重力から解放されたかのように笙が運動性を持ち、自在に疾走する。すると清涼というのとは正反対に、ほんのりとしたエロスが漂い出す。「Trio」では驀進する箏に暴力的なアクセントで介入する。中国笙とのデュオ「対峙II」は二つの笙が互いに捕捉しあい、逃走しあうスリリングな協奏だ。真鍋は雅楽の演奏家でもあるが、西洋的に作曲しているようだ。そのせいか、所々で不思議と電気楽器や電子音楽を聴いている気分になった。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2018年8月号より)
【information】
CD『笙韻若水〜真鍋尚之 作曲と笙の世界〜』
真鍋尚之:呼吸Ⅲ〜Ⅴ、箏四重奏曲、Trio〜笙と二面の箏のための〜、対峙Ⅱ〜笙と中国笙のための〜
真鍋尚之(笙) 螺鈿隊(らでんたい)【市川慎 山野安珠美 梶ヶ野亜生 小林真由子(以上箏)】吴巍(中国笙)
収録:2012年12月、東京オペラシティ リサイタルホール(ライヴ)他
コジマ録音
ALCD-9182 ¥2500+税