小沢麻由子は東京藝術大学、同大学院を経てパリ・エコールノルマル音楽院で研鑽を積んだピアニスト。これまでにフランスの作曲家の作品を中心に公演やCDリリースを続けてきた彼女が、大切にしてきたレパートリーであるドビュッシーを中心としたリサイタルを行う。
「今回のリサイタルにはドビュッシーの作品を2つ入れました。ただ2つといっても、『前奏曲集』の第1巻を全曲弾きますので、実際にはプログラムの半分以上を占めています。今回演奏する『前奏曲集』など、ドビュッシーの後期の作品は、彼が自身の音楽を確立し、まるで達観したかのような雰囲気を感じさせます。空間での音の混じり合い、そこから生まれる色彩感の際立ちが見えてきますね」
リサイタルでは、ドビュッシー以外にもフォーレやショパンなど、フランスに深く関わりのある作品が並び、小沢のピアニズムの魅力が存分に発揮される内容となっている。彼女が“フランスもの”に惹かれるのはなぜなのだろうか。
「子どもの頃から無意識に惹かれていたように思います。もちろん勉強の過程でいろいろな作曲家に触れ、今も演奏していますが、どう弾きたいかという意思、欲求がフランスものに対してはより明確に出てくるのです。ですから、早いうちからフランス語を習い、留学するならフランスに行きたいと思い勉強をしてきました」
実際にフランスで過ごしたことで得たものは非常に大きかったという。
「異なる文化、環境に身を置いたことで感覚が敏感になり、また自分の感性に忠実でいる勇気や自信を得られたように思います。何より大きかったのは、ジェルメーヌ・ムニエ先生との出会いでした。“楽譜を読む”ことの本当の意味を教えてくださいました。これは今の演奏、そして指導にも大きく影響していると感じています」
7月に発売される小沢の最新盤(ナミ・レコード)では「前奏曲集」第1巻のほかドビュッシーの初期と晩年の小品も取り上げられ、彼の多面性をより意識した選曲を行った。幅広いレパートリーを持つ彼女だが、これからもフランスものの演奏は活動の中心的な位置を占めていくことになるのだろうか。
「やはりドビュッシーはずっと取り組んでいきたい作曲家です。作品からしか知ることはできませんが、彼の感性には愛情にも近い憧れを持っています。基本的には作曲家やテーマにこだわらずにその時々に感じる音楽を作りたいと思っていますが、ドビュッシーが私の近くにあり続けることは変わらないでしょう」
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2018年8月号より)
小沢麻由子 ピアノリサイタル
2018.8/12(日)14:00 東京文化会館(小)
問:新演03-3561-5012
http://www.shin-en.jp/
CD
『小沢麻由子 プレイズ ドビュッシー』
ナミ・レコード
WWCC-7875 ¥2500+税
7/25(水)発売