新倉 瞳(チェロ)× 尾上松也(歌舞伎俳優)

異分野の若き才能が綴る『セロ弾きのゴーシュ』

 新倉瞳と尾上松也の出会いは、2016年に開催された「クラシック・ロックアワード」の司会での共演。片や日本のクラシック・シーンを担う若き人気チェリスト、片や歌舞伎界の若手花形俳優として押しも押されもせぬスターのひとりと、それぞれフィールドこそ違うが、どちらも枠にとらわれない鮮烈な活動ぶりで知られるご両人。そんな二人が、宮沢賢治の名作『セロ弾きのゴーシュ』をモティーフにした、新しい形の音楽劇で共演を果たす。

新倉 「長年海外で研鑽を積むうちに、日本人としてのポテンシャルを持ちながら音楽活動を続けていきたいという想いがどんどんと膨らんでいました。そんな頃に松也さんと出会い、そのご活躍を知れば知るほど、同世代でこんな凄い人がいらっしゃることに衝撃を受けました。伝統の世界に生きながらも、様々なジャンルで才能を開花させ、それをきちんと歌舞伎に持ち帰っている。特に歌舞伎自主公演の『挑む』シリーズを拝見した時、自分で続けてきた『チェロの小部屋』コンサートと共鳴する部分を感じて、ぜひこの方とコラボレートしたい、絶対に何か新しくて素晴らしいものが生まれるはずだと、第六感のような強い確信を持ちました」

松也 「ご一緒に舞台に立つからには、お互いにとって意味のあるものを創りたいのです。振付をお願いしております(尾上)菊之丞さんは、これまで何度も私からの無理難題にお応えくださった頼れる方。正直僕らだけで全部を大仕掛けの歌舞伎のような演出にしてしまえば、どんな内容の原作や設定であっても舞台として成立させることができてしまう。それが歌舞伎の強みなのですが、今回は菊之丞さんをはじめスタッフの皆さんのお力添えをいただき、クラシックと歌舞伎、それぞれをきちんと成り立たせて共存させるのが大きな課題ですね」

 物語はセロ(チェロ)の視点で展開。松也が演じるのは“セロの精”で、新倉はゴーシュ役、つまりチェロを演奏することに徹するのだとか。

新倉 「チェロの演奏に合わせて伝統的なスタイルで舞っていただくだけにはしたくなかったのです」
松也 「“セロの精”のような超自然的な存在は歌舞伎の得意とする表現です。今回は主役が二人だけですのでできるだけシンプルに、まずは能や狂言を歌舞伎化した“松羽目物(まつばめもの)”に近い古典的な様式で“セロの精”によって物語のあらすじを語るところから始めます。そしてゴーシュのもとを夜毎に訪ねて来る様々な動物、三毛猫やかっこう、狸の子や野鼠の親子は、山台にのった義太夫の演奏に合わせてそれぞれのキャラクターを作って踊り分けたいと考えています」

 クラシック・ファンとしては物語に登場する「トロイメライ」(原作ではロマンチックシューマン作曲と表記)やクライマックスで披露される曲目がどのように描かれるのかにも注目したいところだが…。

新倉 「実はそのあたりはこれから具体的に詰めていくところです。例えばピアニストに出演していただくことも考えています。私の方はあくまでもクラシックの演奏家として、自分にできることをしっかりと務める。舞台のことは専門家である松也さんに安心してお任せしたいのです。お互いのファンの皆様にも満足していただけるような、全く新しい『セロ弾きのゴーシュ』を上演できると思いますので、どうかご期待下さい」

松也 「決して詳しくはないのですが、僕自身もクラシック音楽が好きで、いろいろな演奏会にお邪魔させていただいています。お気に入りは小編成の室内楽。歌詞がない分、聴いているとどこまでもイメージが膨らんでいくのがいいですね。歌舞伎は古典芸能ですが、これまでも同時代における異分野の才能との出会いによって様々な革新を遂げてきた伝統があります。今回のコラボから僕らが得るものもたくさんあると思います。どこの世界でも新しい試みにはいろいろなご意見があるかとは思いますが、恐れずに挑戦を楽しみたいです!」
取材・文:東端哲也 写真:藤本史昭
(ぶらあぼ2018年7月号より)

【Profile】
●新倉 瞳

8歳よりチェロを始める。11歳でドイツより帰国後、毛利伯郎に師事。桐朋学園大学を首席卒業し、桐朋学園大学研究科において堤剛に師事。在学中、EMI Music Japanより『鳥の歌』をリリース。テレビ、ラジオ出演多数、近年では森下仁丹ビフィーナのCMキャラクターにも抜擢。2010年よりバーゼル音楽院ソリストコースに在籍し、修士課程を最高点で修了。15年よりカメラータ・チューリッヒのソロ首席チェリストに就任。第18回ホテルオークラ音楽賞受賞。現在、スイスを拠点に活動中。

●尾上松也
1985年生まれ。歌舞伎俳優。六世尾上松助の長男。90年に歌舞伎座『伽蘿先代萩』の鶴千代で二代目尾上松也を名のり初舞台。2009年から歌舞伎自主公演『挑む』を主宰するほか、ミュージカル『エリザベート』(15)などに出演。その他の出演作にNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』(17)、ディズニー映画『モアナと伝説の海』声優(17)、主演ドラマ『木ドラ25 さぼリーマン甘太朗』(17)など。

【Information】
響―ひびき― セロ弾きのゴーシュより
某(それがし)はセロである
チェリスト 新倉 瞳 × 歌舞伎俳優 尾上松也
2018.7/14(土)14:00 サントリーホール ブルーローズ(小)
問:アスペン03-5467-0081 
http://www.aspen.jp/

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