目まぐるしく動く声部が有機体のように絡んで線の束を織り上げ、音の波となって押し寄せる。鈴木輝昭は音のアクロバティックな身振りを次々と繰り出して聴き手を圧倒するが、その関心は音色や奏法の開発というよりも、弦楽四重奏やピアノトリオといった古典的なメディアにおけるテクスチュアやドラマトゥルギーの探求へと向いている。出発点にはまっとうな西洋音楽の伝統があり、そのことはフランス古典舞曲のタイトルを各章に配した冒頭の「無伴奏チェロ組曲第1番」にシンボリックに表れている。初演・再演時の録音を集めたものだが、若手たちがハイテンションでフレッシュな演奏を繰り広げている。文:江藤光紀
(ぶらあぼ2018年6月号より)
【information】
CD『鈴木輝昭 室内楽の地平』
鈴木輝昭:無伴奏チェロ組曲第1番、スピリチュエルⅡ〜チェロとピアノのための、弦楽四重奏曲第3番、ピアノ三重奏曲第1番、ディヴェルティメント〜チェロ合奏のための
篠原悠那 桐原宗生 鍵冨弦太郎(以上ヴァイオリン)
中恵菜(ヴィオラ)
鈴木皓矢 横田誠治(以上チェロ)
鈴木あずさ(ピアノ) 他
日本アコースティックレコーズ
NARD-5062 ¥3000+税