2018年9月2日〜14日にポーランドのワルシャワで初めて開催される「ショパン国際ピリオド楽器コンクール」の公開記者会見およびプレゼンテーションが、3月13日に都内で行われた。同コンクールは、世界のピアノコンクールの最高峰、ショパン国際ピアノコンクールの主催者でもある国立ショパン研究所(NIFC)が、昨今の歴史的演奏法(historical performance)の高まりを受けて、ショパン時代の音楽におけるピリオド楽器(フォルテピアノ)による演奏を普及させることを目的として実施する。今後は5年ごとに開催される予定。
(2018.3/13 トッパンホール Photo:I.Sugimura/Tokyo MDE)
記者会見には、ワルシャワから来日したNIFC副所長のマチェイ・ヤニツキ、NIFCメンバーでコンクールのチーフプロデューサーであるヨアンナ・ボクシチャニン、ポーランド音楽出版社のダニエル・チヒ博士、およびピアニストのダン・タイ・ソンが出席した。
ヤニツキは、NIFCでは2001年の研究所創設時からピリオド楽器でのショパン演奏に重点を置いていたと語る。
「ピリオド楽器の演奏による演奏は、私たちの感受性を目覚めさせ、私たちのまったく知らないショパンの響きの魅力を再発見させてくれます。我々の目的は、ピリオド楽器で演奏されることによりショパンのリアルな魅力を伝えることにあります。ショパンの音の手触り、魅力というのは実際に彼が演奏した楽器と切り離すことの出来ない関係性から生まれています。ピリオド楽器による演奏は、ショパンの音楽の別の受容の仕方を我々に伝えてくれるのです」
NIFCでは、エラール、グラーフ、ブッフホルツ、プレイエル、ブロードウッドなどのピアノのコレクションを収集しているという。これまでに音楽祭で、アンドレアス・シュタイアーやマルタ・アルゲリッチらがピリオド楽器でのショパン演奏を試み、また、ショパンの全作品をピリオド楽器で録音するプロジェクトも実施するなど、さまざまな活動を行ってきた。コンクール開催直前の8月にも、ピリオド楽器を使用したマスタークラスが開催されるという。
今回のコンクールの応募資格は、18〜35歳。DVD書類審査(5/1〆切)を経て出場者が決定、30名が9月の予選・本選に出場する。審査員は、アレクセイ・リュビモフ、アンドレアス・シュタイアーら歴史的演奏のスペシャリストや、ニコライ・デミジェンコ、ダン・タイ・ソンなど主にモダン楽器の奏者でピリオド楽器にも精通したピアニストが世界から集まった。ショパンの初期ポロネーズや同時代の作曲家のポロネーズやバッハも課題曲となっている第1次予選、ショパンのマズルカやソナタなどが課題曲となっている第2次予選を経て、本選ではショパンのピアノとオーケストラのための作品が課題曲となり、18世紀オーケストラと共演する。9月13日に最終順位が決定し、14日にガラ・コンサートが行われる。
なお、楽譜出版に携わるチヒ博士は、日本でも広く知られるパデレフスキ版のほか、特にピリオド楽器の演奏者にとっては、批判的原典版であるエキエル校訂版(ナショナル・エディション)が有効であると述べた。ポーランド音楽出版社では、ショパンと同時代の他の作曲家の楽譜出版にも力を入れているという。
実演を交えながらピリオド楽器での演奏について語ったダン・タイ・ソンは、かつて初めてピリオド楽器に触れたときにはパニックになったと明かした。
「ピアノであって、ピアノでないような(笑)・・・別の楽器を演奏しているような感じでした。でも、だんだん古楽器のタッチに慣れてきました。モダン・ピアノの場合は全身を使って演奏しますが、歴史的楽器の場合は指先に集中しなければなりません」
ワルシャワでの初のピリオド楽器による演奏会では、聴衆の反応は予想を超えるものだったという。また、NIFCの協力により、同じ曲をモダンとピリオドの両方の楽器で録音する試みも行った。
「ピリオド楽器は、フレームが木製でサイズも小さく、チューニングは低めです。温かい音色で発音が明確でクリア。モダン・ピアノが長めの響きで歌う(singing)楽器であるとしたら、ピリオド楽器は語る(talking)楽器です。ペダリングも振動の大きさも違う。ロマン派の中でも、インティメイトな雰囲気をもったシューマンのような作曲家の作品はピリオド楽器に適しているのではないかと思います」
会見に続く第2部では、フォルテピアノ奏者の小倉貴久子によるフォルテピアノの演奏に関するアドバイスや、コンクール参加希望者に向けた相談、試奏などが行われた。
International Chopin Competition on Period Instruments
2018.9/2(日)〜9/14(金) ワルシャワ・フィルハーモニック・ホール
http://iccpi.eu/en/