ダニエル・シュー(ピアノ)

“ファンタジー”とは僕にとって魅力的な言葉です

C)Jeremy Enlow/The Cliburn
 1997年カリフォルニア生まれのダニエル・シュー。2015年の浜松国際ピアノコンクールで第3位に入賞した後、17年、19歳の若さでヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール第3位に入賞。ますます活躍の場を広げることとなった。
「いつも演奏旅行や学校の課題に追われていましたが、コンクール中は他のことを忘れて音楽に集中でき、より純化された表現と音楽の意味を探求するきっかけとなりました」
 いずれのコンクールでも、その若さにして深みのある表現が評価されていたが、今回のリサイタルでもそんな感性が発揮されそうなプログラムが用意されている。まず目に留まるのは、ショパンとスクリャービンによる「幻想曲」だ。
「“ファンタジー”とは僕にとって魅力的な言葉です。表現の可能性が無限なので、想像が自由気ままに駆け巡ります。ショパンとスクリャービン、ともに同じ“幻想曲”という名前が付いていますが、全く異なった方法で書かれています。ショパンの幻想曲は、厳密な形式がないという意味で“真の”幻想曲と言えるでしょう。一方スクリャービンの幻想曲は、自由に聴こえるようでソナタ・アレグロ形式で書かれています。ハーモニーが豊かでロマンティック、旋律は譜面を超えて高く舞い上がり、すばらしい音楽の旅に誘います。二つの幻想曲を並べて演奏するのは、僕にとってとても興味深いことです」
 また、シューベルトのピアノソナタD664は、一度聴いてすぐに虜になった特別な作品だという。
「シューベルトのソナタといえば、D959やD960といった重厚で大きな傑作を思い浮かべることが多いと思います。しかしこれらの傑作群のあいだには、細心の注意を払って作曲されたこのD664が存在するのです。各フレーズ、精巧かつ芸術的に書かれていて、小規模ですが、聴き手に永続的な感銘を与える作品だと思います」
 さらに、愛着のあるショパンのピアノ・ソナタ第2番も取り上げる。
「幼いころ初めて学んだショパンの大曲でもあります。終楽章を勉強していた時、兄(同じくピアニスト)が“墓の上を吹く風”のように弾くとよいと話してくれました。僕はまだ幼かったので気味の悪い印象を持ちましたけれどね。振り返ると、今は当時と全く違う作品を演奏していると感じます」
 異なるスタイルのソナタや幻想曲、さらにポロネーズも含めた多彩なプログラムで、「違ったタイプの曲の対比とドラマによって、みなさんに多様な音楽体験をもたらしたい」と語る。3度目となる来日公演で、また進歩した音楽性を披露してくれそうだ。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2018年4月号より)

Imagine Shining Star Series Vol.17
ダニエル・シュー ピアノ・リサイタル
2018.6/15(金)19:00 浜離宮朝日ホール
問:コンサートイマジン03-3235-3777 
http://www.concert.co.jp/