シューマン作品の音の行間にあるものを探して
桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学音楽学部をともに首席で卒業し、数多くのコンクールを制してきたピアニストである小林五月は、これまでに11枚のソロ・アルバムをリリースしてきた。そのうちの9枚がシューマン・アルバムであり、小林にとってシューマンは切り離せない存在となっている。実際に日本を代表するシューマン弾きとしての地位を確立している彼女が、3月に10枚目となるシューマン・アルバムを届けてくれる。今回は後期の作品である「森の情景」と「ペダルフリューゲルのための6つの練習曲」を中心としたプログラムだ。
「幸運なことに、レコーディング前にドイツのツヴィッカウにある『ロベルト・シューマン・ハウス』で実際のペダルフリューゲルを試弾することができました。あたたかい、包まれるような音色に感動しましたし、演奏への大きな活力となりました」
「ペダルフリューゲルのための6つの練習曲」は、足鍵盤付きピアノのための作品であり、ドビュッシーが2台ピアノ用に編曲した作品も知られているが、今回ピアノ独奏で演奏できるように小林自身が編曲したものを収録した。
「ペダリングやテンポなどを調節しながら苦心して編曲しました。もともと私はオペラやオーケストラを聴くことが好きなのですが、『森の情景』は弾いているとシューマンのオペラ《ゲノフェーファ》のイメージが浮かんで仕方ないのです。同じ“森”が舞台ですし、作品番号もゲノフェーファが『81』、森の情景が『82』ととても近いんです」
小林は「シューマン・チクルス」と題したリサイタルシリーズも行ってきた。3月6日の公演で10回目となる。今回はピアノ独奏曲以外にヴァイオリンに原田幸一郎、チェロに毛利伯郎を迎え、ピアノ三重奏曲第1番を演奏する。
「この曲はシューマンの交響曲第2番に通じるところがあります。実は私、演奏会ではじめて弾いたシューマン作品はピアノ五重奏曲で、室内楽からシューマンの世界に惹かれていきました。ですから、絶えず様々な音色とその絡み合いについては意識しています。今回は素晴らしい共演者にも恵まれ、当日を迎えるのがとても楽しみです」
小林のシューマンは、技術の高さはもちろんだが、なんといっても生き生きとした表現力が魅力。演奏は一回ごとに全く違うものになるという。
「あらゆるペダリングやテンポ感を試し、音の行間にあるものを探しています。演奏するその時まで徹底的に楽譜を読み込み、どう音楽を創り上げるか考えていきますが、実際に弾くときは様々なものから自分を解放し、その場の空気や感覚を大切にします。ですからレコーディングも“ほぼライヴ録音”状態。エンジニアさんに優しいピアニストだと思います(笑)」
あらゆる音色に彩られ、生命力に溢れた小林のシューマン。リサイタルではCDの先行販売も行われる。ぜひ自由な音楽が飛翔する小林の演奏を生と録音とで聴き比べ、シューマンの音楽に広がる様々な可能性を堪能してほしい。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2018年3月号より)
小林五月ピアノリサイタル シューマン・チクルス Vol.10
2018.3/6(火)19:00 東京文化会館(小)
問:ミリオンコンサート協会03-3501-5638
http://www.millionconcert.co.jp/
CD
『森の情景 シューマン ピアノ作品集 Ⅹ』
コジマ録音 ALCD-7219
¥2800+税
3/7(水)発売