ラフマニノフ「2番」で成熟の証しを
2000年に始まった横須賀芸術劇場の「フレッシュ・アーティスツ from ヨコスカ」は、文字どおり、未来へ羽ばたくフレッシュな若き俊英たちをいち早く紹介、サポートするリサイタル・シリーズだ。昨年7月に第50回の節目を迎えたのを記念して、過去の出演者3人をソリストに招き「三大協奏曲」演奏会が開かれる。
07年に20歳でロン=ティボー国際コンクールに優勝したピアニスト田村響は、高校3年生だった04年7月、このリサイタル・シリーズに出演して、リストとプロコフィエフの重量級プログラムを披露した。
「演奏については、もうあまり記憶がないのですが、海外の講習会に参加したり、いくつかの海外コンクールにも挑戦して、ちょうど世界に目が向き始めていた時期でした。学校生活との両立で、眠気と戦いながら必死で練習していましたね」
今回演奏するラフマニノフの協奏曲第2番はロン=ティボーの本選でも弾いた作品だ。
「15歳の時から何度も弾いている作品です。あまり言葉にして考えたことはないのですが、ロシアの広大な薄暗い大地を漂っているようなイメージです。流れるようなメロディ・ラインが特徴だと思います。ロン=ティボーの優勝は、もちろんすごく嬉しかったですけれど、一方で、これからこの道でいろんなことを経験し、向き合って行く機会を与えられたんだなという覚悟も感じていました」
ピアニストとして、その「向き合い方」の部分、向き合おうとする気持ちは、高校生の頃から変わらないという。
「もちろん、さまざまな経験によって自分の底にあるエネルギーが膨らんだりはしているので、作品へのアプローチは毎回少しずつ変わっていると思います。前よりは迷わないようにもなりました。でも、5年後に振り返れば、また同じようなことを言うかもしれませんから、結局その積み重ねですよね。先がどんな道なのか、まったく想像はできませんが、いずれにしても必ずプラスの方向に行くと信じているので楽しみです」
今回の「三大協奏曲」は、ほかにチェロの上村文乃によるドヴォルザークと、ヴァイオリンの鈴木愛理によるメンデルスゾーンが演奏される。
「全部短調ですね。音楽って、心の底からハッピーな曲は少なくて、何かを超えて出てくるものが美しい。そこが音楽の感動・共感ポイントだと思います。今回はヴァイオリンとチェロとピアノ、それぞれの楽器の響きを聴いて、いろんな感じ方ができるのは、すごく素敵ですね」
管弦楽は東京シティ・フィル、指揮は田村とは初共演となる高関健だ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2018年2月号より)
フレッシュ・アーティスツ from ヨコスカ 50回記念演奏会「三大協奏曲」
2018.1/27(土)16:00 よこすか芸術劇場
問:横須賀芸術劇場046-823-9999
http://www.yokosuka-arts.or.jp/